第21章 箱庭金魚✔
ぱちゃりぱちゃりと水音を響かせながら、互いの体に冷や水をかけては、はははふふふと笑い合う。
そんな水遊びとは程遠く。
叩き付けるように水飛沫を上げ、伸す勢いで相手の四肢を打ち、勝利を捥ぎ取ろうとする。
「っは…はぁッどう、だ!」
「うぬ…っ」
そんな怒涛の水合戦が終了したのは、蛍が杏寿郎の体に馬乗りして一本を取った頃だった。
「私の勝ち…っ?」
「そのようだな。降参、だ」
「やったッ」
呼吸法は互いに使っていない為、ぜいはあと荒い息が漏れる。
尻餅をついて座り込んでいる杏寿郎の上に跨ったまま、蛍は勝利の拳を握った。
途中から組手合戦へと変化した気もしなくもないが、それでも互いに頭から足先までずぶ濡れ状態。
蛍が歓喜の声を上げれば、揺れる髪から水滴が飛ぶ。
「じゃあ負けた杏寿郎は、罰として濡れた衣服の洗濯係ね」
「待て。いつそんな制約を交わした?」
「今決めました。勝者の権限です」
「それは流石に唐突過ぎるぞっ」
「杏寿郎が言う? いっつも唐突なこと口走るのに」
「それとこれとは…っ」
「ふふっ」
「?」
唐突に告げられた指令に思わず抗議すれば、くすくすと蛍が含み笑いを零す。
「嘘だよ。汚したのは私もだし、洗濯は二人でしないと」
「…よもや」
「ふふ、ふっ今の杏寿郎の焦り顔、なんだか可愛かった」
ころころと鈴が転がるように笑う蛍を前にしては、そんな悪戯心に悪意など感じない。
寧ろ甘ささえ感じるようなじゃれ合いに、杏寿郎も自然と口元を緩ませた。
元々、水合戦も本気で挑んだ訳ではない。
蛍とのかけ合いが面白くて、つい童心に帰ってしまっただけだ。
小さな勝利に逐一喜ぶ蛍の愛らしさに、敗北さえも甘美に感じる。
「蛍」
「ん?…ん、」
鈴を鳴らし続けている蛍の濡れた肌に掌を添える。
腕を掴み気を引かせると、こちらを見下ろす冷えた唇に己のそれを重ねた。
「…なに? 急に…」
「したくなったから、した」
触れ合いは些細なもので、すぐに顔を離せば血色がよくなった蛍の顔が間近に映る。