第20章 きみにより 思ひならひぬ 世の中の
「……」
「いやあの。無言でしゅんとしないで下さい。眉毛も下げないで。凄い悪いことしてる気になるから」
口ではそう言うものの、ついもふもふの柔らかな頭をあやすように撫でてしまう。
罪悪感は募る。
できるならまだこうして繋がっていたいとも思う。
しかし杏寿郎にもあるように、蛍にも尽きぬ欲はあるのだ。
(このまま繋がっていたら、またしたくなっちゃうかもしれないし…)
心地良い温もりは、心地良いだけではない。
時に熱を宿すものだ。
「今は、杏寿郎とこの時間を大切にしていたいの。体で繋がることも好きだけど…今は、ここで繋がっているのが、とても心地良いから」
そっと、はだけて覗く厚い胸元に手を添える。
「今、とてもしあわせなの。私、欲張りだから。そのしあわせをまだまだ噛み締めていたいの。…駄目かな」
緩やかな声で告げる蛍の瞳は、夜の闇に映える鮮やかな緋色。
血とは違う。
月明りに反射して煌めくような鮮やかなその色に、いつも杏寿郎は魅入ってしまうのだ。
「…狡いな、君は。俺が断れない言い方を知っている」
「杏寿郎程じゃないよ」
「そうか?」
「うん。よく無自覚で振り回してくるよね」
「そう…か?」
「うん。だから無自覚なの」
「…む」
考える素振りはしたものの答えには行き着かなかった杏寿郎の手が、細い腰を抱く。
易々と蛍を抱き上げれば、ぴたりと隙間なく繋がっていた互いの体温が離れる。
杏寿郎自身が抜けると、ほんの少しだけ蛍の口から憂いの吐息が零れた。
「ならば、まだこうしていてもいいだろうか」
「…ん」
蛍の体を緩く囲うように、太い腕が胡座を掻いた膝に抱く。
噛み締めていたいと告げた通り、離れるつもりはない。
すっぽりと腕の中に収まったまま、蛍はぴたりと両脚を閉じた。
折角注いでくれた彼の子種を、また零してしまわないようにと。