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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第20章 きみにより 思ひならひぬ 世の中の



「千寿郎くんには…」

「無論、それも告げてはいない。今も剣士を諦めず、日々鍛錬を続けているからな」

「…そっか」

「千寿郎が望むなら、剣士としての道も応援してやりたい。しかしあの子は俺とは違っていいと思うんだ。千寿郎には千寿郎にしかないものがある。俺にはないものが」


 慈しむように告げる杏寿郎の顔を見つめて、その顔に瓜二つでありながら中身はまるで違う少年を蛍は思い浮かべた。

 杏寿郎の言う通り、二人は違う。
 千寿郎の色を通して感じさせてくれる優しく穏やかな空気は、彼しか持ち得ないものだ。


「神様とか信じてる訳じゃないけど…私も、そうだったらいいなぁって思う」


 鬼である自分にも誠実な目で向き合ってくれる彼が、肩身の狭い思いをせずに伸び伸びと生きていけるように。


「千寿郎くんがありのままの自分を受け入れられる世界になれば、いいなぁって。杏寿郎の言うように、兆しであれば…その為なら私、いくらだって頑張れる気がする」


 千寿郎だけではない。杏寿郎もまた、刀を振るわずに生きていけるのであれば。
 想像もつかない世界だが、必ずしも不可能な世界ではない。


「そうだな…千寿郎だけでなく、この世の為にも目指さねばなるまい」

「あと、夜に藤のお香を焚かなくていい世界の為にもね」

「っふ、はは! 確かに。蛍には外せない問題だったな」

「とっても」

「以後気を付けるようには千寿郎にも言ってある」

「千寿郎くんは悪くないよ。習慣は抜けないものだし」

「だがあの後もずっと心配していたんだ」

「千寿郎くんが?」

「ああ。実際の鬼と対面したことはないからな。他にも何か蛍の生活の妨げとなってしまうものはないか、俺に色々と尋ねて来た程だ」

「千寿郎くん…本当に優しいなぁ…」

「うむ。明日、元気な姿をあの子に見せてやってくれるとありがたい」

「うん。それくらいでへこたれる鬼じゃないよって伝えておく」


 握り拳を作ってにこりと笑う。
 そのままにそわりと体を揺らすと、蛍は「だから、」と付け足してた。


「そろそろ、本当に抜いてもいい?」

「む。」


 未だ繋がったままの体を。

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