第20章 きみにより 思ひならひぬ 世の中の
慣れない後孔の刺激でも達してしまったのは、そこに杏寿郎の想いを感じたからだ。
体以上に、心で感じた想いが募って、溢れて、快感へと導いた。
「とても愛らしかったなぁ…また、見たい」
「っん…杏、じゅろ」
愛おしげに囁きながら、大きな掌が頬に添えられ親指の腹が耳朶を撫でる。
そんな些細なひとつひとつの杏寿郎の仕草が、愛撫となり蛍の体に熱を灯す。
添えられた手を両手で握ると、蛍は顔を赤らめながらそっと温もりを離した。
「待って…また、感じちゃうから…」
ようやく熱は落ち着いたというのに、これではまたも燻ってしまう。
恥じらいながら耐えようとする蛍のその姿に、杏寿郎が何も感じない訳がなかった。
笑顔のまま固まったかと思えば「ん"っ」と濁った吐息を零す。
「感じてくれても、俺は別に構わないが」
「っ何言って…此処、外だから。今度こそ槇寿郎さん達に聞かれたら…っ」
「ならば聞かれない場所なら問題ないと。そういうことだな?」
「そ…っれは、」
離そうとしていた温もりが、蛍の頸に添えられる。
鬼の急所であるそこを掴まれ、うなじを指で掻きなぞられれば、ぞくりと背筋が震えた。
「ぁ…っ」
「…蛍」
近付く獅子の顔。
獲物を捕らえた獣のように、色欲混じえた瞳が近付く。
顔一つ分もない互いの距離は、簡単に縮められた。
熱く名を呼ぶ杏寿郎の唇が、蛍のそれを塞ぐ──
「ままま待って!」
「むぐ」
前に、蛍の両手が一瞬早く杏寿郎の口を塞いでいた。
「またしたら夜が明けちゃう…っ」
「…む」
夜明け即ち、鬼の死。
それは流石に無視できず、口を塞がれたまま杏寿郎も動きを止めた。
「明日もまだあるし…続きはいつでもできるから…っ」
「…明日も抱かせてくれるのか?」
「っ!」
咄嗟に口走ったことを、杏寿郎は聞き逃さなかった。
口を塞ぐ小さな手をやんわりとずらすと、まじまじと蛍を見て問いかける。
墓穴を掘った。とばかりに赤面する蛍は、ただし否定もしない。