第20章 きみにより 思ひならひぬ 世の中の
杏寿郎の予想は突拍子もないものだったが、女性の体の仕組みと鬼の体質を考えれば、あり得ない話ではない。
否定しかけた言葉を呑み込み頷く蛍に、杏寿郎はにこりと朗らかに笑った。
「現にこうして幾度も抱いた蛍の体は、人の女性と何も変わらない。俺の全てを受け入れて、包み込んで、心地良いものを沢山くれる」
「…ん…」
大きな掌が、蛍の腹部を優しく撫でる。
未だに繋がったままでいたことを思い出すと、蛍は羞恥を混ぜて頷いた。
「本部に戻ったら、胡蝶にその点について一度訊いてみよう。人体に詳しく鬼の研究も怠らない彼女なら、何かわかるかもしれない」
「…うん」
「珠世という女性は、鬼の妊娠については何も知らないのだろうか」
「人と鬼が恋仲になった前例はないって、言ってた…」
「ふぅむ…そうか、」
「…あの…杏寿郎」
「ん?」
「そろそろ、抜いても、いいかな…」
ぴたりと隙間なく繋がっている杏寿郎とは、違和感などない。
寧ろ心地良さを感じるものだったが、一度意識してしまえば羞恥は募る。
恐る恐ると問う蛍に、杏寿郎はまたも朗らかににっこりと笑った。
「いいやまだだ」
「えっ」
まさかその笑顔で拒否されるとは。
驚く蛍の腹部に、杏寿郎の掌は重なったまま。
「言っただろう、とても心地良いものだと。まだ俺は蛍とこうしていたい。それに…このまま蛍の中で俺の子種を馴染ませていれば、孕ませられるかもしれないだろう?」
さわりと、温かな掌が腹部を優しく擦る。
子宮の上を外から愛でられているような仕草に、優しくも逃がさない声に、蛍はこくりと喉を嚥下させた。
愛撫の一つもされていないのに、きゅぅ、と子宮が震えるようだ。
「ん、…感じてくれたのか? 愛いな、蛍は」
「っ…」
微かな震えも、繋がっている杏寿郎には感じ取れたようで、かぁっと顔に熱が集中する。
「それは、杏寿郎、が…」
「そうだな。俺の言葉だけで気をやれるようになったものだしな」
「っ!」
いつもの癖で反抗すれば、それ以上の返しを喰らって更に顔から湯気が立ちそうになった。