第20章 きみにより 思ひならひぬ 世の中の
一滴残らず受け止める蛍の狭い口内で、びくびくと陰茎が震える。
残ったものまで飲み干すように更にちゅるりと吸われて、杏寿郎は身を震わせた。
「は…ぁ…っ」
心地良い解放感に、くたりと壁に背を凭れ力なく視線を下げる。
見えたのは、未だ杏寿郎のものを深く咥えたままでいる蛍。
それもそのはず。
その頭をしっかりと掴んで固定しているのは自身の手なのだ。
「っす、すまん!」
「んぷっ」
高揚していた赤い顔からさぁっと血の気を引かせて、杏寿郎は慌てて蛍の肩を掴み腰を退いた。
ちゅぽんと抜ける反動で、蛍の口から白濁としたものが溢れる。
咄嗟に両手で口元を押さえる蛍は、ぷくりと小さな頬袋を作っている。
それ程までに大量に欲望を放ってしまったのかと、杏寿郎は慌てて屈み込むと焦り気味に口調を速めた。
「出していいぞ。今すぐに。ぺっだ、蛍。吐き出せっ」
目線を合わせて静かならがも激しく動揺している杏寿郎に、潤んだ目を向けた蛍がこくりと頷く。
「ん、く」
頷いたのは返事の為ではなかった。
大きく嚥下するように、口内に溜まった青臭いそれを飲み込んだのだ。
ぴしゃん!と、衝撃を受けた杏寿郎の顔が驚きのまま固まる。
「…けほっ」
「! だ、大丈夫か…っ」
「ん…大丈、夫」
ようやく両手を口元から離せば、覗き込む程に顔を近付け心配してくる。
そこにやんわりと蛍は笑いかけた。
「味は、あれ、だけど。でも、気持ち悪くなってない。杏寿郎のものなら、飲める、みたい」
鬼の体でも受け付けられたことが純粋に嬉しかったのだろう。ほくほくと笑顔を見せる蛍の表情は愛らしいが、濡れた唇には滴る欲の名残りが見えている。
「杏寿郎も、きもちよく、なれた?」
涙が滲む目で、けほりと少し咽る声で。顔を高揚させながら、何より嬉しそうに問いかけてくる。
脳天を貫くような甘い痺れにぐっと唇を噛むと、堪らず杏寿郎は目の前の体を抱き締めた。
「ああ。…すごく、気持ちよかった」