第20章 きみにより 思ひならひぬ 世の中の
しかしそこから先には進もうとしない。
難しい顔で唇を結ぶ杏寿郎の姿は、千寿郎を部屋に迎え入れる前に自身の熱を抑えていたものと重なった。
この場で蛍に手を出すことはできないと悟った末だろう。
杏寿郎の気持ちが読み込めたからこそ、蛍も動けなかった。
千寿郎は、杏寿郎の部屋で一人寝ている。
それを放って外に出ることなどできない。
だからと言って、二度も杏寿郎の熱を抑えることにも気が引けた。
見ず知らずの娼婦の姿が、杏寿郎の背後にちらつくようだ。
それを振り払うように、きゅっと蛍は唇を噛み締めた。
「…杏寿郎」
豊かな黄金色の髪に差し込んだ手で、すり、と太い頸を優しくなぞる。
「さっきは、私を気持ちよくしてくれたから…次は、私の番」
息を呑むように目を見張る杏寿郎へと、顔を少し上げて。
濡れて引く糸を舌で舐め取り、優しく口付けた。
「少しだけ、いけないことにつき合って」