第20章 きみにより 思ひならひぬ 世の中の
「私は蜜璃ちゃんみたいな愛嬌も、胸張れる体系もないけど…張れる胸がそもそもないけど…いや少しは、こう、寄せて…やっぱなんでもない」
「…っふ、」
「! 今そこ笑う? 女心が木っ端微塵にされましたけど今」
「いや、…ふ、くく…っ」
「御猪口みたく粉々にされてますけど今!」
「す、すまん」
ようやく治まった頬を更に膨らませて、心外だとばかりに赤くなる。
そんな蛍を前に、堪らず杏寿郎は拳を口元に当てて笑い堪えた。
謝罪もつい笑い声を含んでしまい、更に蛍のつり上がる目が涙目となる。
「あまりに、君が愛らしくて、だな」
「…前から思ってたけど、愛らしいと小馬鹿に笑うんですか。杏寿郎は」
「っふ、はっ。そう怒ってくれるな。どうしようもなく顔が緩んでしまうんだ」
小馬鹿になどしていない。
体の熱いところから溢れ出る蛍への愛おしさに、押し流されるように止められず破顔してしまうのだ。
「君を前にすると、柱としての威厳が易々と砕かれてしまうな」
砕け散った、足元の猪口のように。
「生き生きと巡る君の表情には、いつも目が離せなくなる。拗ねた顔一つでも、愛いものだと俺の心を満たしてくれる」
「…え、っと」
「体系は他人と比べる必要などない。例え数多の女性と混浴しようとも、俺の目に映る身体はひとつだけだ」
「っ…ぁ…数多の女性と、混浴なんてしないで下さい…」
「それに君は自信がないと言うが。腕も胸も背も足腰も、縁取る君の身体の線はとても綺麗だと思う。たおやかな繊細さと、ばねのような強さがある」
「ぃゃ…そういう、ことでは」
「君だけが持つ色味も好きだ。澄み切る月のような肌の色も、そこが色事で牡丹のように色付き咲く様も。闇に紛れることなく俺だけを見てくれる、鮮やかな濡れそぼる緋色の瞳も好きだ」
「ちょ…っと、待って」
止まることなく続く杏寿郎の言葉が重なるごとに、蛍の顔も赤みを増していく。
前のめるように体を向けてくる杏寿郎に、押されるように蛍の背が斜めに傾く。
「だから上書きをさせてくれないか」
とん、と杏寿郎の手が、蛍の背の後ろに手をついた。
「俺の手で暴いてもいいのなら。蛍の全てを、知り尽くしたい」