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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第19章 徒花と羊の歩み✔



 顔を覆っていた手をゆっくりと離すと、目尻に残る涙を拭う。
 なんでもないと告げて、蛍は静かに笑った。


「槇寿郎さんと、お酒を飲んでいただけ」

「…では、それは?」

「これは…お酒で、少し感情が緩んだと言うか…」

「君、そのワインは何処から持ってきた」

「ぅ。」


 杏寿郎の目が、蛍の傍らに置かれた栓の空いたワインボトルを見つける。
 心配は残るものの、一度止めた飲酒をまたこっそりしていたなど。
 すぅっと目を細めて向ければ、蛍はぎくりと身を竦めた。


「感情が緩んで泣くとは、飲み過ぎでは」

「ち、違うの。槇寿郎さんが、嬉しいことを言ってくれたから」

「父上が?」


 いきなり話題の方向転換に、ぐりんと杏寿郎の目が槇寿郎へと向く。
 びくりと肩を震わすと、槇寿郎は不本意と言うべき表情で頸を横に振った。


「ほ、蛍さん。何を言って」

「本当に嬉しかったんです。私のこと、少しは受け入れて貰えたかなって」

「それは真ですか父上!」

「お前は声がでかいッ場所を弁えろッ」

「すみません! しかし蛍を受け入れたということは、俺達のことを認めて貰えたということですか!?」

「どうせ認めても認めなくても、お前のことだから勝手に事を進めるだろう! 同じことだ!」


 謝罪をしながらも全く萎まる気配のない声は、更に大きくなっていくようにも聞こえる。
 爛々と光る目で笑顔を向けてくる杏寿郎に、つられて槇寿郎の声も張り上がった。


「いいえ、同じではありません。父上に認めて貰い、祝福されて蛍と家族になることとは、天と地の差があります。俺は嬉しいです!」

「…っ」


 くしゃりと綻ぶような笑顔で破顔する。
 杏寿郎の余りの喜び様に、勢いが削がれた槇寿郎は口を結んだ。
 今の杏寿郎には何を言っても、負の感情など届かないだろう。


「折角ですし俺も酒の席を共にしてもよろしいでしょうかっ?」

「え。杏寿郎も飲むの?」

「うむ! 俺も父上と蛍と酒を酌み交わしたい!」

「でも今、私に飲み過ぎだって…」

「祝言の酒なら別だ! 俺も飲もう!」

「切り替え早っ」

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