• テキストサイズ

いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第19章 徒花と羊の歩み✔



「……私の、姉は…人に、殺されました」

「──!」


 言い淀む声を絞り出して、切り出す。
 槇寿郎の心の奥底は、踏み込まねば見えてこない。
 ならばこちらも踏み出さなければ、ならないと。


「最後には、鬼に喰われたけれど。でも、姉の心と体を死に追いやったのは、底辺にいる女を人として扱いなどしない男達でした」

「……」

「だから私は鬼に対しての憎しみなんてないんです。あるのは、心に鬼を住まわせた人に対してだけで…他の鬼殺隊の剣士達のように、心から鬼を憎んでいない」


 その時点で、鬼殺隊の資格などないのかもしれない。
 そうだとしても。


「それでも、人を襲う鬼を野放しにしていいとは思っていません。剣士の誇りもないちっぽけな我儘から生まれた私の道ですが、それでも此処まで歩んできた今は、救える人がいるなら救いたい。姉のように、力のない者がただ強者に潰されるだけの世界など、見たくはないと思うのです」

「…それが貴女が継子として生きる理由か」

「いいえ。先にも言いましたが、私の理由なんて我儘なものです。槇寿郎さんは、見るべきものを見失う前にと言いましたが、私はもう見るべきものを見ています」


 それはなんだと怪訝な目で問いかける槇寿郎に、蛍は迷いなく告げた。


「杏寿郎さんを守りたいんです」

「…杏寿郎を?」

「はい。人の為、世の為と、あのひとが我武者羅に前だけを進んでいくのなら。そうなるべく押し流すものから、守っていたい」

「……」

「だから傍にいてくれないといけないんです。あのひとの顔が見える距離で、声が届く歩幅で、触れ合える近さで。見ていたいんです」





『彼女は俺が必ず守り抜きます。その為には、傍にいなくては駄目なのです。隣にいてくれなければ』





 昼間。
 凛と前を見据え宣言した杏寿郎の言葉が、透けて重なるようだった。

 自分は鬼殺隊で身を捧げてきたばかりに、一番守らねばならないひとの傍から離れ、その時間を殺してしまった。
 悔やんでも悔やみきれない。
 槇寿郎の果てしなく続く後悔を、彼らは知っているかのように。

 杏寿郎も蛍も、その目に映すべきものを見つけていた。

/ 3464ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp