第5章 柱《弐》✔
「愛してるんですね…旦那さんのこと」
思わずぽつりと漏れた蛍の言葉に、ぱちりと三人の目が瞬く。
途端に、ぼっとその顔が一律に赤く染まった。
「ぁ、あ、愛なんて…ッ何言ってんの!」
「ひゃあっ恥ずかしい!」
「っ…そういう問題ではなくて、」
「愛してないんですか?」
「「「愛してるに決まってる!」」」
ぴったり息を合わせて即答する妻達に、ふと蛍の表情も綻ぶ。
(よかった)
天元の一方的な愛だけでは意味がない。
彼女達もまたその愛を望んで向けていないと、夫婦とはなり得ない。
そしてそれが奇跡のようなものだと思った。
忍という掟に縛られるばかりの世界で、宇髄家の四人が同じ想いを抱けたことが。
「天元さんも言ってました。誰よりも派手に奥さん達のことを愛してるって」
「ほ、本当に?」
「はい。誰一人欠けさせられないし、他で埋められもしないって」
「天元様ったら…!」
「あの方は、ああいう性格だから」
ふ、と笑みを零した雛鶴が、ほんの少し困ったように笑う。
「忍としての生き方に疑問を抱いたのも、わたくし達の為。忍の世界で女は命を賭して任務を遂行するか、世継ぎを生む道具としての役目しかないから。そんな扱いしかできないのなら、その世界は要らないと仰ってくれた御方なの」
蛍の枕元に腰を下ろす雛鶴に、まきをや須磨も続く。
「でも天元様を鬼殺隊の柱にさせたのは雛鶴よね?」
「そ、そうだったかしら」
「そうですよー! 雛鶴さんがけじめを付けようって約束したから、天元様も柱まで成り上がったんですよ!」
「約束?」
「そうです! あたし達が御天道様の下で、笑って生きていく為の約束!」
「須磨ったら! そんな昔の話…!」
蛍を囲んで賑わう妻達の話。
それは襖を隔てた明るい陽の下まで、賑やかに響き続けた。