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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第5章 柱《弐》✔



「で…ですが…」

「言っただろ、俺もこいつも同じ痛みを味わった。そこに地味な分別なんてつけるな」


 それ以上の反論は天元が許さなかった。
 押し黙る妻達に、やがてふと彼が息をつくと空気が変わる。


「さぁて。煉獄も今頃飯食ってる時間か?」

「え? あ…はい。煉獄様も一度筆を置かれました」

「んじゃ、折角作ってくれた飯だしな。あいつの所で見せつけて味わってくるか」


 食事が並ぶお膳台を片手に立ち上がる天元は、既にいつもの空気を纏っていた。
 和らぐその場の温度に、ほっと妻達の肩が下がる。


「ついでにお前が目を醒ましたって伝えてきてやるよ」


 蛍に笑った後、ぽんぽんと大きな手が妻達の頭を一人ずつ撫でる。


「その間こいつを頼むわ。お前達が俺の自慢の女房だってこと見せつけてやってくれ」

「天元様…」

「はいっ」

「ここはわたくし達にお任せ下さい」


 ニッと砕けた笑顔を向ける天元に、妻達の声にも明るさが戻る。
 宇髄の当主が席を外すと、三人の妻達は改めてほぅと息をついた。


「天元様、元気そうだった…良かったです…」

「当たり前よ。これくらいで折れるような御方じゃないわ」


 去る背中を見送る須磨とまきをとは別に、部屋の奥に寝かされた蛍へと、そっと雛鶴が視線を巡らせる。


「先程はごめんなさい。わたくし達も鬼に良い思い出がないから、つい口走ってしまったことなの」

「ぁ…いえ。大丈夫、です」

「まきを。須磨。貴女達も」


 呼ばれた二人の目が、再度蛍を捉える。
 そこには先程までの感情は含まれていなかった。


「さっきは…悪かったね。つい感情的になって」

「許して下さいッ」


 気まずそうにも謝るまきをに、ぺこりと頭を下げてくる須磨。
 その変わり様に驚いたのは蛍の方だった。


「ぃ、いえ。尤もな言葉だったし、天元…さんの、奥さんなら、当然の感情だし…」

「それでも、天元様が鬼であるあんたを名で呼んだ。それはあんたを認めてるってことだ」

「天元様が認めたなら、あたし達もちゃんと貴女を見なくちゃ」

「ええ。宇髄の妻として」


 天元だけではない。
 彼女達もまた、心から天元のことを慕っているのだろう。
 妻としての役目をしかと理解している者の目だった。

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