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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第19章 徒花と羊の歩み✔



「ほう。牡丹は漢方として役立つのか」

「はい。生薬として用いるのは根だそうで、日干しして乾燥させたものを牡丹皮(ぼたんぴ)と言うのだそうです」

「凄いな、千寿郎。そんなことまで熟知しているとは」

「…薬草の勉強は面白くて」


 こんもりと大きな山と、小さな山の布団が二つ。
 ぴたりと寄り添うように並んでいるそれは、枕を合わせてうつ伏せに寝転がり、図譜を読み込む杏寿郎と千寿郎の二人だ。

 感心とばかりに何度も頷く杏寿郎に、千寿郎も照れた笑みを零す。
 蚊帳の中で二人、寝る気配などは一切なく話に花を咲かせていた。


「昔から千寿郎は頭が良かったからな。興味のあることは、どんどん吸収するといい。俺にできることがあるならなんでも手伝おう」

「そんな、そこまで褒められるものでも…」

「そんなことはないぞ。学問の成績だって俺より上だ。自信を持て」


 小さな頭に乗る、くしゃりと掻き撫でる手は優しい。


「好きならば尚更。知識を持て、千寿郎。いつかきっと役に立つ時がくる」


 昔、母の命日に帰省した日のこと。
 いつまでも剣の腕が上達しないことに、己に才能はないのだと嘆く千寿郎に告げたことがあった。

 人の役に立てることは、剣の道だけではない。
 視野を狭くしてはいけないと。
 どんな人でも悩み、苦しみ、必死で藻掻いて道を拓き、自分の人生を歩んでいる。
 何があっても千寿郎が大切な弟であることに変わりはないのだと。

 それから千寿郎は、剣だけでなく興味を持ったことには手を付けるようになった。
 その一つが薬学である。


「俺も、人の役に立てる時がくるでしょうか…?」

「その志を持ち得ているだけ、十分だ。千寿郎はきっと立派な大人になる」


 誰かの為にと優しい心を持ち、苦難を前にしても懸命に、真っ直ぐに伸びようとする。
 そんな千寿郎が誇りであり、剣士でなくても自慢の弟だ。

 迷いなく告げる杏寿郎の力強い言葉に、千寿郎も安堵の中に喜びの笑顔を浮かべた。


「そういえば兄上。この間、面白い花のお話を聞いたんです。青い彼岸花って知っていますか?」

「青い彼岸花? いや、知らないな。彼岸花は赤色だけではないのか?」

「彼岸花という種名の花は、赤と白だけです。ですが幻の青色が存在するみたいで」

「ふむ」

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