第19章 徒花と羊の歩み✔
自分の家が裕福ではなかったことは自覚している。
鬼殺隊と関わりがなくても、一目見て良家とわかる煉獄家の者とは育ち方も違えば、立場もまるで違う。
杏寿郎の継子として、また添い遂げる者としてこの家に踏み込む覚悟はできていたが、果たして自分がその立場に見合う言動ができているのか。
家柄や作法など興味もなく触りもしてこなかった蛍には、何もかもが手探りだった。
「使用人ではなくとも、不躾なことをしている自覚はあります。言い訳にしかならないでしょうが、その…仕来りや、礼儀などを、よく…知らなくて。初めて槇寿郎様にご挨拶させて頂いた時も、失礼なことを申してしまいました…本当に申し訳ありませんでした」
「……」
「私が私の顔に泥を塗ることは、私を認めて下さった杏寿郎さんの顔に泥を塗ることと同じです。なるべく自分で直していこうとは思いますが、知識不足故に至らないことも多くて…槇寿郎様のお手を煩わせるかもしれませんが、ご教授頂けたらと」
三つ指をついて、再び深く頭を下げる。
「どうか…煉獄家に、嫁ぐ者として…お願い致します」
嫁ぐ者、と告げる声は萎んでしまった。
また槇寿郎の気を荒立たせてはしまわないか。常に不安は付き纏う。
そんな蛍の縮まるような小さな姿を見下ろしていた槇寿郎は、静かに片膝をついて視線を下げた。
「…辿々しいな。慣れない言葉遣いのようだ」
「す、すみません…」
「だが変わろうという意志は伝わった。なら、それだけでいい。様などと呼ばず、昼間のように呼んでくれないか」
「ですが…」
「私も、蛍さんと呼ばせてもらう」
「ぇ…」
深く下がっていた頭が上がる。
蛍の前に腰を落ち着けると、槇寿郎は険しい顔をしたまま、同じく頭を下げた。
「昼間、初対面の場でみっともない姿を晒したのは私の方だ。…すまなかった」
「そ…そんな、ことは…っ」
「私を思ってくれるなら、どうか否定はしないでくれ」
「…っ」
返せる言葉が見つからず口籠る蛍に、ゆっくりと槇寿郎の顔が上がる。