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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第19章 徒花と羊の歩み✔



「じゃん。白ワインは杏寿郎に取り上げられたから無理だったけど、こっちならこっそり持って来られました」

「……」

「凄いでしょ? 地味に血鬼術の訓練を続けてたら、多少のものなら影に忍ばせられることがわかって」


 黒い政宗の鳥目がまじまじと、現れたワインと蛍の影とを見やる。
 純粋に驚いているのだろう、そういう反応は素直だよねと蛍も満足げに笑った。


「あれこれ試してみると小さな発見が幾つかあって。単純に影で影を縛ったり、自由に動かせるだけのものかと思ってたけど…影鬼の使い方は、他にも色々あるみたい」


 血鬼術ばかりは、師である杏寿郎にも未知なるものだった。
 己で己を知り能力開花に努めるようにと師としての助言を貰い、時間を見つけては色んなことを試してみることにした。
 物の出し入れが可能なことに蛍が気付いたのは、節分で一度発動した影沼をどうにか操れはしないかと奮闘した結果だった。

 人間サイズのものは飲み込むこともできず、影沼の能力(ちから)が開花した訳ではない。
 それでもある意味、別の発見はできた。


「…能力。無駄使イ」

「なんだと」


 しかし政宗には無駄な労力に映ったようだ。
 フゥと大きな黒い嘴から溜息をつくと、そっぽを向いて足を羽毛の中に折り畳む。

 生憎と蛍も、今は煩く喚き合う気力はない。
 それ以上は互いに何も追求せず、静かな虫の音に耳を傾けた。


(でも今は本気でワイン持って来ててよかったかも…)


 人の血に勝るものはないが、渋みの強いワインを口に含んでいれば多少は気が紛れる。
 同じく台所から拝借しておいた小さなグラスをぽこんと影から取り出すと、とくとくと深みのある赤い液体を注いだ。

 まだ頭の中は揺れている。
 どうにか注いだ液体を零さないようにと両手でグラスを持つと、静かな夜空を仰いだ。

 京都で見た時よりも、此処の空は広い。


(京都(あそこ)では迎える勇気がなかったけど…今なら)


 いつか誰かが、空で瞬く幾億もの星屑は亡くなった人の魂だと説いたことがある。
 それは盆に流す数多の灯籠であったり、燃え上がる炎の塵であったり。人が思いを馳せる時、命は形を成すのだろう。

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