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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第19章 徒花と羊の歩み✔



「……千寿郎くん」


 じっと見上げる瞳はそのままに。


「柱としての杏寿郎のこと、知ってる?」

「柱として…?」


 唐突に、蛍はそれを切り出した。


「鬼殺に対する姿勢も、人の命への向き合い方も、いつも炎みたいに熱くて真っ直ぐで。その場その場の判断・行動も迅速かつ的確で、余念がない。柱に足る人物だって、周りの隊士さん達にも言われてる」

「…想像はつきます。兄上は独学と実力で、炎柱の座にまで上り詰めた人ですから」

「うん、そうだね。…でもね、大変だったの」

「え?」

「此処に来るまでの任務中、ずっとあの大きなお土産風呂敷を担いで移動してたから。偶に自分の命より、風呂敷の安全面を気遣うのに必死になったりして」

「そ、そうなんですね…それは、すみませんでした…」

「安全面だけじゃない。それによって行動が制限されたり、視野が狭まったり。任務をこなす上で不要な障害ができてしまう。継子である私が思ったくらいだから、師である杏寿郎も重々わかってたと思う。柱としての杏寿郎なら、障害となるなら切り捨てるのが最善だともわかってたと思う。…それでも、一言だってあの風呂敷が邪魔だなんて言わなかった。私は何度も訊いたのに」

「……」

「それだけ、杏寿郎には必要なもので大切なものだった。理由なんて、赤の他人の私にだってわかる。…それだけ、渡す相手に喜んで欲しかったからだよ」


 握り返してはこない小さな手を、包むように握る。
 背負うものが、地に着く足場が、少年を動かせないのであれば。


「千寿郎くんの今の感情を、杏寿郎が迷惑に思うことなんて絶対にない。赤の他人の私にもわかるよ」


 なんの肩書きも持たない自分が、引き上げるだけだと。


「寧ろ千寿郎くん以上に全力で喜びそうな気がする。千寿郎が嬉しいなら俺も嬉しいって、大きな声で笑って」

「それは………想像、つきます」

「でしょ?」


 さつまいもを食した時のように、天井をも突き通るような快活な声で口を大きく開けて笑う。
 そんな杏寿郎の姿を想像して、思わずくすりと二人で笑い合った。

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