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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第3章 浮世にふたり



『これなら菊葉を切り捨てるんじゃなかった』

『何言ってやがる』

『あいつを此処に縛り付けておけば、妹も漏れなくついて来たんじゃねぇかってことだ』




 菊葉は姉さんの源氏名。
 今更、姉さんは此処では働けない。
 病を抱える女性を抱こうとする者はいないだろう。
 そしてそんな姉さんを無理に働かせようとする程、男達も畜生ではないはず。




『だからオレは反対したんだよ。菊葉に一服盛るのは止めようって』




 そう思っていたのは、私だけだった。




『そうでもしねぇと、妹を連れ出せねぇつったのはどこの誰だ』




 一服盛った?




『なんだ、俺の所為にする気か?』

『あの毒の調合も、梅毒に似せるのに苦労したのによ』




 毒? 調合?
 何を、言っている、のか

 一瞬頭が真っ白になって、体が硬直した。
 上手く息が吸えなくて、ふらついた足が歪みに躓いた。




『!? 誰だッ』

『お前は…柚霧!?』




 物音を立てて気付かれてしまった、襖を開けた男達の顔。
 そこに反省も後悔も何一つもなくて、世間話をするように毒を盛った話をしていたんだ。

 そのことにゾッとした。




『ひ…と、ごろし…』




 じゃあ姉さんが立てなくなったのも寝たきりになったのも、全部こいつらの所為?




『人殺し…っ』

『何を…下手なこと言ってんじゃねぇぞ柚霧!』

『菊葉は死んじゃいねぇだろ!』




 死んでいない?
 お粥のような流動食しか食べられなくなったのに?
 着替えも一人でできなくなったのに?
 あれを生きていると本気で言っているの?

 男達は畜生ではなかった。
 畜生以下の、塵屑(ごみくず)だ。




『…帰る』

『は?』

『こんな所もう辞める…ッ』

『辞められる訳ねぇだろ、お前にゃ借金があるんだ!』

『知るもんか。あんた達が姉さんにしたことを考えれば、お金を払うのはそっちの方だ』

『柚霧!』

『それは私の名前じゃない!』




 一瞬足りとも、こんな所にいたくない。
 罵りたい言葉は沢山あったけど、それより真実を然るべき所に伝えなくては。

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