第19章 徒花と羊の歩み✔
何も悪いことはない。
杏寿郎と関わりのなかった人生の方が長いのだ。
そういう経験があったとて、責められる理由にはならない。
そう思いはしても言葉らしい言葉も出ず、蛍は蛇に睨まれた蛙のように硬直した。
「……」
見下ろす杏寿郎もまた、口元の笑みを消す。
間違いであれば蛍は即否定するだろう。
しかし押し黙ったまま固まったのだ。
(成程。生娘でないことなら、まだしも…これは、)
みしりと杏寿郎の額に血管が浮く。
ふぅ、と細い息を吐いて、どくどくと沸き立つ血流を抑え込んだ。
はっきりと感じたのは強い不快感だ。
蛍の過去を今更変えることなどできはしないが、その体を隅々まで好きに弄んだ者がいたのだと知ると。
どうしようもなく腹の底が嫉妬で沸き立つ。
「…そうか。蛍の体を、俺の知らぬところまで暴いた者がいたのだな」
「杏、じゅ」
「いい。言わなくても、その目でわかった」
肯定など聞きたくない。
見え透いた否定など更に不要だ。
肩を掴んだ手が、そのまま畳へと蛍を縫い付けるように押し倒す。
腰を深く屈めれば、脚を割って入った杏寿郎の硬い芯が、強く蛍の足の付け根に押し付けられた。
「ん…ッ」
「なら、俺がここを暴いても構わないということだ」
更にその下。
後孔を探るように浴衣越しの陰茎を擦り付ければ、蛍の目が見開く。
「ぁ…ゃ、待って…」
「待つ? 何を?」
「っ…此処じゃ…っ」
いくら感情が昂ってはいても、その言葉は無碍にはできない。
静かに深呼吸をして肺の空気を循環させると、杏寿郎は蛍の顔を見ずに耳元へと唇を寄せた。
「ならば早急に移動しよう。でないと抱き潰し兼ねん」
「っ」
かぁ、と赤らむ蛍の耳や肌を見ると、先程までは愛らしさしか感じなかったというのに。
快楽に従順な反応を示す様が、知らぬ誰かに教え込まれたものにも思えて目眩がした。
(嗚呼。本当に)
先程の甘噛みとは程遠い。
赤らむ小さな耳に、強く噛み付きたくなる衝動を抑えて。
「君は誘うのが上手いな…助平な身体だ」
ぼそりと黒い熱を吐いた。