第19章 徒花と羊の歩み✔
排泄の用途しかないところを、快楽の手段にされるなど。
月房屋で初めてその行為を要望された時は嫌悪感しかなかった。
執拗に触られて、舐られて、自分にとっては痴態でしかない姿を晒す。
そんな柚霧を見て興奮する男には、寒気すら感じた程だ。
そんなところを責められて気持ちよくなれるはずがない。
それを身をもって知っていたからこそ、杏寿郎に触れられた時は純粋に血の気が退いた。
はずだったのに。
「杏寿郎が、触るから…体は、熱くなるの。そんな声で呼ぶから…ほんと、ずるい」
ずるい、と呟く声さえも甘えを含んでいるようで、蛍は熱が宿る顔を俯かせた。
その手は抱き竦めてくる腕に、寄り添うように添えたまま。
「じゃなきゃ…か、感じたりなんか……そんなこと、今までなかったのに…」
杏寿郎の思うままに快楽に溺れていくことは嫌ではない。
しかし自分も知らなかった未知の快感を引き摺り出されたようで、多少の敗北感はある。
ぽそぽそと小さな声で最後の抗いを見せる蛍に、髪や肌に優しく口付けを落としていた杏寿郎の顔がぴたりと止まった。
「…………ふむ?」
「…?」
「……」
「杏寿郎?」
長い沈黙に、微動だにしない体。
蛍が振り返ろうとすればそれより早く、ぐっと大きな手が華奢な肩を掴んだ。
「ぅ、わっ?」
言う程強い力ではなかった。
それでも有無を言わさず肩を掴んだ手が、蛍の体を仰向けに返す。
四つん這いの体制から、支えを失った背中が畳へと落ちる。
衝撃は然程なく、支えた杏寿郎の手が蛍の体を寝かせた。
「それは、」
見上げた先。
部屋の行灯は煌めく焔色の髪を照らすが、入浴により下りた前髪に隠れた顔は影を残す。
それでも蛍を見つめる瞳は暗闇に光る炎のようだった。
「あの性技は、初ではないと言うような物言いだな」
口元は笑っていた。
普段からよく見る、杏寿郎の常備の笑顔だ。
しかし影の中でも光る炎の両目だけは笑ってはいない。
射貫くような二つの視線が、蛍を凝視するように見下ろしている。
(しま、った)
無意識に、ひゅっと喉が締まる。