第19章 徒花と羊の歩み✔
「驚かせてすまない。しかし蛍も悪くはなかったようだしな。結果良ければ何よりだ」
「よ、よくない。どっからそんな知識入れてきたの…っ」
「なに。そういう快楽の得方もあると、風の噂で聞いただけだ」
「何それどこの噂…」
あっけらかんと応える杏寿郎を、まじまじと見ていた蛍の訝しげな目が不意に変わる。
「…まさか、美人妻を三人持つ忍者だったり…」
「……」
「いや図星か」
「…む。(すまん宇髄。見抜かれた)」
まさか一発で当てられるとは。
つい口を閉じた杏寿郎に、蛍が答えを導き出すのは早かった。
「あの歩く十八禁め…」
「そう言ってやるな。宇髄から聞いたのは確かだが、それも昔の話だ。蛍と体を重ねるようになったからではないぞ」
「……」
「本当だぞ…その目はやめてくれ」
じとりと見上げてくる蛍に苦い笑みを一つ。
昔、酒の席で泥酔した天元に、下(しも)の話で絡まれた時に知った話なだけだ。
それでも止めようとした蛍の声を聞かず、行為を押し付けたようなものだから仕方ないのだろう。
そう、普段なら謝罪一つで終わるところ。
「それに蛍も不快ではなかっただろう?」
こと蛍との交わりとなると、そうはいかなくなる。
「本当に嫌なら、俺の腕など逃げ遂せるはずだ」
「…だから…そういう言い方は、ずるい…」
鬼の力を持ちながら、自分の前ではその力を発揮できずに欲へと身を落とす。
そんな蛍の姿が、もっと見たいと思ってしまうのだ。
やんわりと背後から今一度抱き竦める。
所有物のように付けたうなじに咲く花弁の跡に唇を押し付ければ、ぴくりと白い肌が反応を示す。
そんな仕草ひとつが堪らなく愛おしい。
「宇髄とは違うが、俺も男だ。好いたひとのあられもない姿なら、どんなものも興味がある」
「…っ」
「気持ちよかったんだろう? 君の体は、そう言っていた」
羞恥か図星か。
赤らむ耳にやんわりと吹き込めば、抱き竦む杏寿郎の腕に小さな手が触れる。
「杏寿郎、だから…だよ…」