第19章 徒花と羊の歩み✔
「…もち、いい…っ」
喘ぎ途切れる、小さな声だった。
それでも声に出せば、全身に汗がぶわりと滲む。
耳元で深く微かに笑う吐息が聞こえて、尚も体が熱くなった。
「うん。気持ちいいなぁ」
優しく肯定してくれる低い声。
どこか熱も帯びた声色が、ほうと息をつく。
うなじに熱。
すり、と肌を擦り寄せられる感触に、鮮やかな金色の髪が視界の横に映り込んだ。
(きもち、いい)
全てを受け入れ許してくれる声も。
肌に吸い付く柔らかい唇も。
「っぁ、あ…んく…ッ」
ぐちゅりと淫らな音を立たせ、翻弄してくる太い指も。
じんじんと知らない疼きを与え、惑わせてくる長い指も。
(きもちいい…っ)
認めてしまえば早かった。
与えられる全ての熱が快感の波に吞まれる。
ぱちりと頭の奥で小さな火花が輝くようだ。
「ふ、う…ふ…ッ」
口を開けば高い声が響いてしまいそうで、浴衣の袖を噛む。
そんな蛍の姿を知ってか知らずか、頸や耳に口付けていた唇が、不意に。
「ん"…ッ」
がぷりと噛み付いたのは、乱れた襟から覗く頸と肩の付け根。
ぱちんと火花が目の前で弾ける。
仰け反る蛍に追い打ちをかけるかのように、蜜を掻き出していた指が過敏な花壁を掻きなぞった。
ひゅくりと喉が鳴る。
全身にぎゅっと力が入ると、玉のような汗粒が肌に浮いた。
「──…ッ!」
快楽の渦に落としていた波が、勢いのまま蛍を高みへと押し流す。
一瞬のようで、永遠にも感じる狭間。
ひくりひくりと肌を波打たせると、きゅっと丸めていた足の指先から力が抜けた。
「っは…ぁ」
噛み付いていた袖から口を離せば、細い唾液の糸が引く。
鬼である蛍とは程遠い、甘い噛み付きだった。
それでも跡を残すかのように舌で拭い唇で吸い上げると、ようやく杏寿郎の責めの手も止まった。