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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第19章 徒花と羊の歩み✔



 纏う衣類を崩すようなことはしない。
 その下で肌を弄る二つの手が、優しく優しく、快楽のツボを見つけては押してくる。
 柔らかい胸の感触を楽しみながら、時折過敏な先端の花の芽をこりこりと指先で転がす。
 蜜壺に潜った指は形を確かめるように壁をなぞり掻き、くちゅりと不規則に捏ね回す。


「ん、く…っ」


 首筋にかかる熱い吐息。
 耳を這う柔らかな唇。
 時折甘くそこに噛み付かれて、耳の奥で響く厭らしい舌の音に尚のこと体は熱くなった。

 ゆっくりと蜜を溜めた花弁を開かせるように。
 優しく熱を送り込んでくる杏寿郎の愛撫に、蛍は溺れた。


「ふ、ふぅ…っ」


 ひくひくと震える足が、力なく滑るように畳を蹴る。
 体全体に広がっていく快楽を無意識に逃がそうとするが、逃げられない。
 背後から捕えるように抱き竦めたまま、優しくも杏寿郎の愛撫が止まることはなかった。


「杏、じゅ…っ」

「ん…?」


 指の隙間から名を呼べば、愛おしさを含んだ声が応える。
 それだけで、くらりと頭は熱を帯び揺れた。

 けれど。


(足り、ない)


 まるで花を愛でるかの如く。
 優しく撫でるような手は、快楽を引き出すのにそこへ突き落してはくれない。


「…も…っ」


 もっと、と口走りそうになって残った理性が、声を止めた。


「どうした?」

「っ…くすぐ、ったい…」

「む。そうか?」


 辛うじて紡いだのは、そんな目に見えた瘦せ我慢。
 それでも決定打に欠ける愛撫は、戯れにくすぐられることと同じことだ。


「俺の技量不足だな。…なら、」

「っ!?」


 胸を弄っていた杏寿郎の手が、更に下る。
 すり、と指の腹で優しく撫でられた感触に、びくりと蛍は体を震わせた。


「ど、どこ触って…っ」


 最初は手違いかと思った。
 しかし意図的に形を辿るように撫でられて、ぞわりと背筋が泡立つ。
 快楽からではない。
 純粋に血の気が引いた。

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