第19章 徒花と羊の歩み✔
「そうだな、声は殺しておいてくれ。愛らしいその声は誰にも聴かせたくない」
「っ…待、って」
「大丈夫だ。ほら。激しくはしない」
「ん…っ」
言葉通り、着物の隙間から入り込んだ杏寿郎の二つの手は、至極優しい手つきで蛍の肌を撫でた。
さわさわと肌を優しく撫でる感覚は、くすぐったく感じる。
なのにじわりと体の奥底が熱を持つのは、何故か。
「準備、って…ふ…っ」
「わかるだろう?」
ちぅ、とうなじに吸い付かれる。
やんわりと乳房を包むように触れてくる掌。
閉じた脚の付け根に入り込むように、ゆっくりと下る手。
「いつでも俺を受け入れられるよう、この体をとろとろに解しておく」
「…っ」
熱を帯びない訳がなかった。
「…蛍」
そんなに欲を込めた声で呼ばれては。
想いがこみ上げる手で愛撫されては。
形を探るように乳房を撫でていただけの掌が、指の腹で先端を擦り上げる。
震えた脚が緩んだその隙に、下る手が一層柔らかい蜜口へと辿り着いた。
くちりと、粘膜を太い指が擦る。
「…濡れてる」
ぼそりと耳元で告げられる声に、かっと蛍の顔が熱くなる。
いつもなら「そうして触るから」と細やかな抵抗を口にできたが、今はそうもいかなかった。
「は…っん、ん」
口を塞いだ手を退けば、杏寿郎以外の誰かに聞こえてしまうかもしれない。
それだけはいけないと頑なに口を閉じる蛍を余所に、太い指は変わらず優しい手つきで蜜口をくぷりくぷりと浅く弄んだ。
「ここ、好きだろう?」
入口の浅い箇所。
指をくの字に曲げて上壁を擦られると、ぞわぞわと蛍の背筋が震えた。
「ん、くぅっ」
這い上がる下半身の快感に集中していれば、きゅっと胸の先端を摘まみ擦られ体が跳ねた。
「一緒にされるのも好きだったな」
「ふ…っん、ぅ…っ」
貪るような愛撫ではない。
優しく、弱いところを的確に突いてくる。
自分よりも自分の体を知っているかのように。
体を暴かれていくような感覚に、蛍はぞくりと身を震わせた。