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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第5章 柱《弐》✔


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「鬼…っ?」

「そうだ」

「あの、天元様がお話していた?」

「そうだ」

「だから襲ってたんですねッ」

「そう…襲ってねぇよ。言っただろ、陽の光から隠しただけだ」


 静かに目を見開く者もいれば、怪訝な顔をする者もいれば、ぽんと手を打ち成程と納得する者もいる。
 どうにか天元の声でその場の騒動は治められ、締め切った行灯一つだけの一室で、蛍は布団の中からまじまじと三人の女達を見上げていた。


(本当にいたんだ…三人の奥さん)


 もしや架空の話では、と思いもした天元の三人の妻。
 それは真実であったらしい。


「蛍、さっき俺が話した女房達だ。右から雛鶴(ひなつる)、まきを、須磨(すま)。よく言っておくから、さっきのことは許してくれ」


 さらりと長い黒髪を一つに結んでいる、左目の泣き黒子が印象的な綺麗めな顔の雛鶴。
 雛鶴と同じポニーテールにしているものの、敢えて染め分けたかのように前髪と後髪で色味の異なる、ツリ目顔のまきを。
 ふんわりと長い黒髪の癖毛を無造作に遊ばせている、おっとり顔の須磨。

 誰一人型が被ることなく個性的ではあるが、皆一律に美しい女達だった。


「あっあたしが悪いんです! だから天元様が鬼に謝ることなんかないですぅ! やめて下さいッ!」


 がばりと土下座する勢いで突っ伏したのは、天元の昼食を手に飛び込んできた須磨だった。
 みっともない!とすぐさま、まきをの平手がその頭に入る。


「やめな須磨! あんたも鬼に頭を下げるなんて!」

「だってぇ…!」

「二人共よしなさい。天元様はお怪我を負っているのよ。これ以上疲れさせないで」


 騒ぎ立てる須磨とまきをを、雛鶴が静かに嗜(たしな)める。


「ここからはわたくし達でこの鬼を監視します。天元様は別部屋で休まれて下さい」

「あ! そうだった! 天元様のお昼ご飯、あたしが作ったんです。ゆっくり食べてきて下さいっ」

「あたし"達"でしょッ」


 見た目と同様に、性格にも大いに違いがある。
 その三人の妻を前に、天元はどうしたものかと考えあぐねた。

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