第5章 柱《弐》✔
「その後のことは全部、煉獄が指揮を取った。俺とお前を此処に放り込んで、胡蝶を呼んだのも煉獄だ」
「…それから、どれくらい…経ったの」
「今は丁度、正午過ぎだな」
ようやく絞り出した蛍の問いに、天元の目が部屋の隅に置かれた時計に向く。
爆発からゆうに七時間以上は過ぎていた。
体がどこまで吹き飛んだかわからないが、天元の言う通りに回復には時間を要しているようだった。
それだけ至近距離で浴びた爆発の威力が凄まじかったこともあるが、体の再生速度も通常より落ちている。
大きな怪我を負った所為か、それとも本当に命を落とした所為か。
今一度失った下半身を見下ろして、蛍は顔を顰めた。
じっと見ていると目眩がしそうだ。
「だから大人しくしとけ。此処は煉獄の屋敷でも離れの一室。あいつもすぐにこっちには来れねぇし、お前も部屋を出て行けない。夜まで我慢しろ」
言葉通りに大人しくなった蛍は、天元の腕の中で微動だにしない。
その顔を横から覗けば、蒼白なままだった。
陽の光に当たることを許されない素肌は、どことなく血色も悪く見える。
(ごっそり派手に血も抜けてるしな)
そう納得はするものの、何故だか気に掛かってしまう。
鬼であるのに余りにも貧弱に見えるからだろうか。
「…とりあえず、お前は横になっ」
「天元様! お昼ご飯お持ちしましたぁ!!」
「!」
「ぅぶッ」
天元がその体を布団に戻そうとした途端、ドタバタと襖の向こうから慌ただしい足音が響いた。
かと思えばスパァン!と勢い良く襖が開く。
差し込む太陽光に、間一髪蛍を覆い隠すように天元の腕が抱き込み俯せた。
蛍の体が忽ち筋肉の下敷きになる。
「っぶねぇ…!」
「ん、んん!」
「馬鹿出てくんな! 死ぬぞ!」
必死に下から這い出ようとするも、すぐさま押し込まれてしまう。
筋肉の壁は分厚い。
「こら須磨ァ! いきなり飛び込むんじゃない! 天元様が驚かれるでしょーが!」
「まきをも大声出さないのっ天元様の傷に響くでしょうっ」
「え…天元、様…が…」
その筋肉の壁を伝って尚聞こえたのは、複数の女達の声だった。
「天元様が女の子を襲ってるぅうう!?!!」