第5章 柱《弐》✔
慌てて見渡した、十二畳程の一間。
自分が寝ていた布団一式と、枕元に置いてある行灯一つ。
それ以外は目の前の男との会話で観察できていなかったが、壁に掛けてある縦軸には"炎"の文字。
飾られた臙脂色(えんじいろ)の壺に行灯に施された火の粉のような模様など、よくよく見れば炎柱を連想させるものは確かにあった。
「言っただろ、お前の体は派手に吹っ飛んだんだ。そんな体をわざわざ胡蝶の屋敷まで運べるかよ。体が蘇生しきるまでは、絶対安静だ」
「じゃあ…杏寿郎は、此処に?」
「そりゃこの屋敷の当主だからな。当然、此処にいる。だが今は柱として勤務中だ」
「柱の仕事…」
「俺達の仕事は大概が鬼討伐だからな。基本は出張任務や深夜行動が多いが、通常業務なら昼間にも行える。つーか人間は御天道様を浴びて生きるのが真っ当ってもんなんだよ」
昼間の彼らの素顔を知らなかった蛍は、大いに驚いた。
同時に気付く。
締め切った襖には、更に分厚い臙脂色の垂れ幕がしてある。
光は差してこないものの、その先から鬼と成った肌に伝わる僅かな熱。
本物の陽光が伝えてくる、その熱だ。
「甘露寺達も皆、出払い中だ。俺は胡蝶に今日一日療養しろって言われたんで、お前の見張り兼世話役をやってんだよ」
「蜜璃ちゃん達…伊黒って人も?」
「それと冨岡もだな」
爆発に巻き込まれた後の意識は、プツリと途切れたようにない。
しかし朝方間近だったことは憶えている。
いつものように迎えに来たところで、義勇もその騒動に鉢合わせたのだろう。
「大変だったんだぜ。お前の砕けた体を見て甘露寺は派手に号泣するし、それを見た伊黒は派手に動揺するしで。冨岡が即座にお前の残骸を日の出から隠したから良かったものの、後少し遅れてたら本当にお陀仏になってたな」
「…そんなに、酷い状態、だったの…?」
「酷いなんてもんじゃねぇ。あんな砕けた細胞からここまで再生するなんざ、鬼じゃなきゃ不可能だ」
「……」
天元の言葉に、蛍は漠然とだが唐突に理解した。
(嗚呼、私、やっぱり死んだんだ)
ぽっかりと何かが胸を空けたようだった。
一瞬だったとしても、あの血の波の中で死と対面したのかもしれない。
其処で向き合った異質な姉の姿は、本物だったのだろうか。