第19章 徒花と羊の歩み✔
「私の世界は姉さんだったから。…姉さえいれば、他はどうでもよかった。姉と共に生きられるなら、なんだって利用した。人の好意も、そうでないものも。姉の為と言えば聞こえはいいけど…結局それも、独りよがり。真っ当な理由をこじ付けて、生きていた、だけ」
言葉にすれば、改めて自分の姿が垣間見える。
(…そうだ…姉さんは、生き苦しいと言ったんだ。それを受け入れられなかったのも、結局は私の独りよがり)
自分と姉の望むものは違ったのだと、実弥と見た影鬼の中で実感したが、そうではなかった。
そうであって欲しいと、懇願したからだ。
自分と共に生きたいと思って欲しい。
生(せい)にしがみ付いて欲しい。
抱える苦しみよりも、妹である自分を選んで欲しいと。
(私の、わがまま、だ)
私利私欲を向けてきた男達と変わらない。
それは自分本位の欲望だ。
「……生きることがね、苦しいって言ったの」
横を向いて杏寿郎の膝に座ったまま、胸の前で掌を握る。
「姉さん。死ぬ間際に、もう、生きることが、苦しいって。…だから、喰べたの」
「……」
「私は、姉さんが世界の全てだったけど。姉さんにとって私は、生きる意味にはならなかった。…だから、その身体を喰らった。私の為に身を捧げてくれたんだって、その為の死だったんだって、そう、思い込まないと……色んなものが、崩れ落ちそうで」
足元に落ちていた視線が、上がる。
ようやく向き合った杏寿郎の顔に、一呼吸ついて。
「今生きる理由も、私は姉さんを土台にして利用してる。鬼になっても、狡いままなんだ」
上手くは、笑えなかった。