第19章 徒花と羊の歩み✔

「和酒なら父上の影響でそれなりに知っていますが、洋酒はどうにも……お口に合えばよろしいのですが」

「十分だよ。だって二本もあるっ」

「わいん、という飲み物には、赤と白の二種類があると聞きました。どちらがお好みかわからなかったので、折角ならと」


　興奮気味に蛍が声を上げるのも無理はない。
　今まで味わってきたワインは、血と同じ赤い色のものばかりだった。
　澄み切るような琥珀色(こはくいろ)のワインは初めて見たからだ。


「私、こっちが飲みたい。これ。白？っていうの？　白ワイン」

「程々にな。余り飲み過ぎては酔ってしまうぞ」

「大丈夫だよ。今までも飲み過ぎで吐いたりしたことないでしょ？　桜餅はすぐ吐くけど」

「むぅ。それはそうだが…」

「いいじゃないですか、兄上。蛍さんに我が家では休息を取ってもらいたいので。好きなものを好きに口にしても、問題はありませんよ」


　そわそわと白ワインを指差す蛍を見守る杏寿郎は、やはり蜜璃と食事を共にしていた時とは異なる顔を見せる。
　蜜璃がどんなに大量の料理を口に流し込んでいても、心配などしたことはなかったというのに。

　物珍しい兄の顔にくすりと口元を綻ばせて、千寿郎は蛍に空のグラスを差し出した。


「同じ食事は取れませんが、それなら蛍さんも一緒に味わい楽しめますし。よければ飲んでください」


　主張は強くないが、優しい千寿郎の促しにぴたりと蛍の目が止まる。


「…どうしよう杏寿郎」

「どうした蛍」

「千寿郎くんが素敵過ぎてうっかり惚れそう」

「えっ」

「そうか。それは困るな！」

「料理もできて気配りもできて度胸もあって優しさに可愛さを兼ね備えてるとか。最高ですお嫁さんに欲しい」

「ええっ」

「駄目だ！　それに千寿郎は立派な男子！　嫁ではなく婿だろう！」

「そ、そういう問題では…っ」

「最高ですねお婿さんに下さい」

「いかん！！！」

「二人共何を仰ってるんですか…！」


　笑顔で全力否定する杏寿郎に、真顔で熱い眼差しを向ける蛍。
　どこまで本気かわからない二人の空気に翻弄されながら、気付けば千寿郎も声を張り上げていた。


「さてはからかってますね！？　僕で遊ぶのはやめてください！！」