第19章 徒花と羊の歩み✔
長い廊下を、幼い足袋が進む。
てきぱきと白い紐でたすき掛けをしながら進める千寿郎の後ろを、杏寿郎と蛍の大人二人が続く。
傍若無人に見えた槇寿郎だからこそ、意外な風呂事情に蛍は目を丸くした。
「じゃあ一番風呂は杏寿郎だね」
「だが蛍が先でも」
「師範。継子」
「…むぅ」
杏寿郎を指差し、それから己を指差す。
蛍の言わんとしていることは十分に伝わるからこそ、杏寿郎も押し黙った。
くすりと、二人の間に舞い込んできたのは小さな含み笑い。
「あ、いえ…っ」
二人揃って横を向けば、そこには顔を赤くしてわたわたと慌てる千寿郎がいた。
「なんだか蜜璃さんが滞在していた頃を思い出しまして…」
「蜜璃ちゃん、此処に住み込みしてたこともあったんだね」
「ああ。炎柱となる前から俺の継子として鍛えていたからな。強化訓練として我が家に合宿していくことも多かった」
「成程」
「こうしてどちらが先に湯浴みをするかという話もしたな!」
「蜜璃ちゃん、お風呂好きだもんねぇ」
「蛍」
「うん?」
「ならば一緒に入るか?」
「うん…えっ? はっ!?」
つい話の流れで頷きかけて、はっとする。
頸をぐるりと捻れば、やはり。其処には驚いた顔で固まる千寿郎がいた。
かぁあ、と先程より赤面が濃く変わっている。
「な、何言って…っ」
「兄上!」
柱の炎柱邸ならば頷いていたかもしれない。
しかし此処は煉獄家の生家だ。
先程注意したばかりなのに何を言うのかと、蛍が慌てて否定しかけた時。
「またそういうことを…! いくら継子でも相手は女性です! 分別を弁えてください!」
「…は?」
ぷんすかと赤い顔で咎める千寿郎に耳を疑った。
「え…どういう…?」
「き、気にしないでくださいね蛍さんっ」
「え、いや…気になる…」
「なに。昔、甘露寺と野外訓練の帰りに立ち寄った銭湯が混浴だっただけだ。共にいた千寿郎は不慣れで狼狽えてしまってな!」
「あぁああ兄上…!」
「こんよく…混浴?」
銭湯に行ったことはあるが、混浴風呂には入ったことがない。
故に蛍も千寿郎と同じく動揺したが、杏寿郎はあっけらかんとした表情だ。