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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第19章 徒花と羊の歩み✔



「確かに鬼殺隊では、瞬く間に命が掌から零れ落ちていきます。善も悪も関わらず。だからこそ柱がいるのです。生きるべき者達が徒に命を奪われないように、悪しき鬼が無垢な命を奪わぬように。…彼女は俺が必ず守り抜きます。その為には、傍にいなくては駄目なのです。隣にいてくれなければ」


 鬼である蛍は、鬼殺隊が関与しない所では生きていけない。
 鬼殺隊が見放してしまえば、最悪無惨の手に堕ちる可能性もある。
 それだけはあってはならないと、杏寿郎は頸を横に振った。


「鬼とは関係のない人々を守るのは俺の務めです。鬼と関係していようとも、善なる心で人を思いやれる者も、守るべき者です。…俺は彼女を守りたい。俺の手で」


 杏寿郎の意志は、柱として申し分ないものだ。
 それでも槇寿郎の顔は変わらない。
 太い眉で眉間に溝を作り、苦々しく吐き捨てる。


「その結果として妻を失くしたらどうする。その死の責任が取れるのか。その手で血に塗れた最愛の者を抱けるのか。お前に…ッ」


 感情が昂り、威圧も高まる。
 緊迫した部屋の空気に、蛍は緊張で汗を握った。

 人間であれば、鬼殺隊の第一線から退くという道も選択できた。
 それができないのは自分が鬼だからだ。
 それを告げるべきか否か。
 このタイミングで自分が口を挟めば更に槇寿郎を激昂させる可能性もある。

 槇寿郎のことを深くは知らない為に、どう出ていいかもわからず。不安げに迷う素振りを見せる蛍とは相反し、杏寿郎は冷静だった。

 静かに、己を指差してくる父を見つめ続ける。


「命あるものは、いずれその命を終わらせる時がきます。鬼殺隊にいようとも、泰平の下にいようとも」

「そんなものはただの屁理屈だ! 鬼の傍に身を置いていれば間違いなく死亡率は高まる!」

「ならば俺は、俺の心が求める人と共にいたい。いつか失くす命ならば」

「…ッ」


 初めて槇寿郎の声が途切れた。
 既に意志を固めた息子を目の当たりにして、説き伏せる言葉が出てこない。

 散々否定し教えを放棄しても、自力で炎柱となり今も鬼を滅し続けている杏寿郎だ。
 その意志の強さは知っている。

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