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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第19章 徒花と羊の歩み✔


──────────

「ここだ」

「……」

「俺が父上と話すから、蛍は傍についてくれればそれで…」

「……」

「蛍?」

「えっあ、ハイ」

「大丈夫か? 表情が硬いが」

「う、うん」


 横から覗き込む杏寿郎に、蛍の背筋がしゃんと伸びる。
 煉獄家に迎えてくれた杏寿郎に、応える為の意気込みとは違う。緊張から伸びたものだ。

 それもそのはず。
 手荷物を置いて杏寿郎が真っ先に広い屋敷の中で蛍を案内したのは、煉獄家の当主であり杏寿郎の父である、煉獄槇寿郎の部屋だからだ。
 他の部屋と変わらない襖なのに、何故か重厚感を覚えてしまうのは先入観からか。

 息子に対する槇寿郎の冷淡さは、前々から聞いていた。
 杏寿郎が柱へと就任した時でさえ、下らないと吐き捨てた父だ。
 そんな元柱であった男に、鬼殺隊として関わっている自分が受け入れられるのかどうか。


「蛍は何も案ずることはない。事前に父にも文で継子ができたことと、連れ帰ることは知らせてある」

「…うん」


 同じく知らされていた千寿郎でも、本当のことだったのかと驚きを隠せないでいた。
 果たして槇寿郎は容認してくれるのかどうか。


(嫌われたらどうしよう…)


 柱相手の時は、嫌われる以前に鬼として受け入れて貰えるかどうかに不安を抱いていた。
 鬼ならば嫌われても当然だとも。
 いつの間に欲張りになってしまったのかと羞恥も募るが、それは相手が元柱であるからではない。
 杏寿郎の父だからだ。

 それだけ杏寿郎と歩む未来を渇望している自分にも、更に羞恥を覚える。
 ぷすりと無言で顔に熱を持たせる蛍の様子に、杏寿郎はくすりと笑った。


「蛍は蛍のまま、俺の隣にいてくれたらいい。では行こう」


 優しく蛍の背に添えていた手を離すと、襖に歩み寄り腰を下ろす。
 そんな杏寿郎に続くように、蛍も隣に腰を下ろした。


「父上。煉獄杏寿郎、只今任務より帰還致しました」


 いつもよりやや静かな、しかし凛と響く声で襖の向こうへと言葉を投げかける。
 部屋の中で何かが動く気配はない。
 引き手に指をかけると、杏寿郎は音もなくすっと開いた。


「失礼します」

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