第19章 徒花と羊の歩み✔
「無論、初めて本部外に出る蛍には、任務に集中して欲しかったこともあるが…何も言わず、少し早まったかもしれないな」
杏寿郎の思いも汲めないことはないからこそ、どうとも言えない。
「だが必ず蛍のことは、我が家に連れて行こうと考えていた」
そんな蛍に凛々しい眉を下げながら、杏寿郎はばつが悪そうに笑った。
「言っただろう? 蛍のことを必ずお館様や家族に認めさせると。既にお館様には、俺と蛍のことを容認して頂けた」
「! ほ、本当に?」
「ああ。勿論、俺と蛍のことを深く話した訳ではないぞ。だがあの御方の何をも見通す眼は確かなものだ。だからこそお館様にも念を押しておいた。鬼殺隊の志の為に、蛍を駒として利用することなきよう」
「お館様はそんなことはしないと思うが」と続けて笑う杏寿郎に、最後まで蛍の耳には届いていなかった。
(認めて、くれた? お館様、が?)
鬼殺隊の主に、人と鬼との繋がりを認められるとは。
耀哉の懐の広さを知ってはいたが、それでもすぐに実感が湧かなかったからだ。
「だから次は家族にと思ったんだ。俺の人生を捧げたいと思った女性を、父や弟にも知って欲しくて」
現実味を帯びたのは、羽織を握っていた手をやんわりと握り返された時。
杏寿郎の双眸は愛おしげな灯火を宿し、蛍を見つめていた。
視線一つ、声色一つ、温もり一つ。
全てが蛍を求める色を灯していて、頬がじんわりと熱くなる。
「無論、急かす気はない。君は俺の継子でもある。そういう意味でも、家族には伝えておかねばな。甘露寺の時もそうした」
杏寿郎も照れ臭さを覚えているのか。
付け足す言葉はいつもより少し早口だ。
「…うん」
繋がった掌から流れ込んでくる熱が、己の体も温めるようだった。
自然と口角が緩み、蛍も一回り大きな手を握り返す。
「少し、驚いたけど…大丈夫。連れて来てくれてありがとう」
ただ口で誓うだけではない。
その手で、その足で、確実に二人の未来を作り上げようとしてくれている杏寿郎に、愛おしさが湧かないはずがなかった。
促されるまま、その後ろを雛のようについて行くだけのことはしたくない。