第19章 徒花と羊の歩み✔
「私は煉獄家の次男、千寿郎と申します。私も兄から届く文で、貴女様のことは常々聞いておりました。此度は鬼殺隊本部からの長期任務、お疲れ様でした。二人共ご無事で何よりです」
「う、うん」
深々と頭を下げてくる千寿郎に、蛍も頭を下げる。
話には聞いていたが、幼いながらも本当にしっかりとした少年だった。
「兄と休暇の為に寄られたとのことで。精一杯おもてなしさせて頂きますので、どうぞ寛いでいってください」
「ありがと、う…?(休暇?)」
「さ。兄上も」
「ああ。千寿郎は息災だったか?」
「はい。私も父上も、変わりなくです」
「…き、杏寿郎」
「む?」
先を進む煉獄兄弟に、一歩遅れてついて歩きながらも蛍は炎の羽織の裾を掴んだ。
「休暇って? 任務で、此処に来たんじゃないの?」
杏寿郎もそう言っていたはずだ。
理解が及ばず問う蛍に、杏寿郎は不思議そうに頸を傾げている千寿郎にひらりと手を振る。
「千寿郎は先に家に戻っていてくれるか。俺達もすぐに行く」
「わかりました。食事と湯浴み、どちらを先になさいますか?」
「それも家に着いてから話そう。父上にも先に挨拶をしておかねばならないし」
「…では、私は先に」
ぺこりと頭を下げて箒を手に煉獄家の玄関へと向かう。
そんな千寿郎を見送っていた杏寿郎は、一息つくと困惑気味の蛍へと目を向けた。
「お父さんって…やっぱり、此処が、杏寿郎のおうち…?」
立派な塀だと何気なく家並みの風景として見ていた建物が、まさか煉獄家だったとは。
代々炎柱を生み出してきた家系となれば、立派な家柄だったことは想像がつく。
しかし予想と現実はやはり違った。
想像以上に堂々たる家を前にして、蛍は肩を竦める。
「…すまない。任と言ったのは、お館様から受けたものではなく、逆に俺が懇願したものだ。長期任務の前には、必ず生家に立ち寄っていたものだからな。今回もその機会を頂きたいと」
「じゃあ休暇って、本当のことで…」
「ああ」
「なんで、黙ってたの?」
「言えば、君に変に身構えさせてしまうかと思って、な」
「……」
杏寿郎の予想は、強ち間違いではない。
現に今、煉獄家を前に萎縮してしまっている自分がいるのだから。