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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第19章 徒花と羊の歩み✔



「故郷って…え。次の任務って」

「おかえりなさい兄上!」


 すぐに状況が呑み込めずにいる蛍の傍に、駆けてくる小さな体。
 近くで見れば見る程、少年の顔立ちは杏寿郎そっくりだった。
 声は快活な杏寿郎とは異なり、穏やかな音色を奏でる。
 しかし兄を見つけ満面の笑顔を浮かべていた顔は、蛍を見ると途端に固まった。


「貴女、は…」

「ただいま、千寿郎! 彼女は彩千代蛍。伝えていた通り、鬼であり俺の継子である女性だ」

「!…ほ、本当のことだったんですか」

「? 俺は千寿郎に嘘などつかないぞ」

「ぇ、ええ、はい。それは存じ上げております。ですが…」


 兄弟間でありながら、丁寧な言葉遣いをする弟だと思った。
 兄への尊敬の表れでもあるのだろう。
 ただその目は、杏寿郎にそっくりながらも不安に揺らぐ視線をちらちらと蛍へと向けている。
 太い凛々しい眉も、常に下がり気味だ。


「ぁ…初め、まして。彩千代蛍といいます。千寿郎くんのお話は、お兄さんから度々聞いています」


 鬼の恐ろしさを知っている者ならば当然の反応だ。
 ここは自分が踏み出さねばと、千寿郎の登場に驚いていた蛍は慌てて背筋を伸ばした。


「確かに私は…鬼、だけど。でも、人を襲うようなことは絶対にしないから。だから、その…」


 安心しろ、などと。
 簡単には言い出せない言葉を濁せば、ぽんと蛍の肩に手を置いた杏寿郎が先を続けた。


「幾度と蛍のことは伝えただろう? 彼女は人を襲ったりなどしない。俺が保証する。だから千寿郎、お前の歩幅で構わないから蛍を信じてくれないか」


 優しい音色で呼びかける杏寿郎の瞳は、今まで蛍が見たどの瞳とも違っていた。
 唯一無二の弟に心の底から信頼を寄せて、語りかける様は炎柱ではなく"兄"そのものだ。


「…はい」


 不安げな色は残すものの、千寿郎はそれ以上抗うことは口にせず大人しく頷いた。
 蛍の存在を目の当たりにしたからではない。
 杏寿郎が信じろと告げたからだ。

 それだけ二人の間に作られた絆は強い。

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