第19章 徒花と羊の歩み✔
「次の任務ってどんな内容なの?」
「気になるか?」
「勿論。目的地に着く前に、その荷物預かるからね。近くに藤の家があれば、また預けても──」
「その必要はない」
人の手によって慣らされた地は山道より余程歩き易い。
さくさくと進む杏寿郎の隣で蛍は頸を傾げた。
「先に要を発たせてある。俺達の情報は届いているはずだ」
「? そうなんだ」
京都の初任務でも同じではなかっただろうか。
しかし必要ないと告げた杏寿郎の言葉からして、託けた先は藤屋敷とは違うのか。
更に頸を傾げながら蛍は並ぶ家並みを見渡した。
京都程とは言わないが、見渡す家並みはそれなりの町だ。
「此処、何処の都?」
「都と言う程ではないな。此処は東京府の駒澤村。美味い飯屋もあるし、温かい人も多い。行事で賑わうこともあるぞ」
「詳しいんだね。此処にも任務で来たことあるの?」
「無論」
さくさくと足を進めていた杏寿郎が不意に歩みを止める。
目的地に着いたのかと等しく歩みを止めた蛍は、きょろりと周りに目を向けた。
ぽつんと一つ。
見つけた人影は然程遠くない所にあった。
(あれ…何処かで見た、ような…?)
すぐにその人影が目についたのは、周りに人がいなかった所為もある。
だが何よりその者自身が目を惹いたからだ。
見知らぬ土地で見覚えがある理由を、蛍はすぐに理解した。
日に当たり輝くような金色に、毛先は朱へと染まっている焔色の髪。
太い黒眉に、目尻の睫毛を跳ね上げた独々の大きな瞳。
見覚えがあるなどという感覚ではない。
その風貌は何より蛍が身近で見てきた人物そのものだった。
「…杏寿郎?」
「うん?」
「いや…あれ、あの子、杏寿郎にそっくり…」
蛍が指差した先。
玄関口で地面を掃いていた箒を手に、その人物もまたこちらに気付き顔を上げた。
長い焔色の髪を高い位置で一つに束ねている、袴姿の十二、三歳程の少年。
杏寿郎に驚く程似た風貌の少年は、はっと目を見開き声を上げた。
「兄上…!」
(…あ、に?)
今、少年はなんと。
困惑気味に少年と隣を交互に見る蛍に向けて、杏寿郎は朗らかに笑ってみせた。
「駒澤村は、俺の故郷だ」