第5章 柱《弐》✔
「ようやく喋るようになったかと思えばギャーギャー煩ぇな…! そんなに恥ずかしいってか!」
「なんか生理的に嫌だ!」
「よォーし蛍な! ハイ決定!! 拒否権ナシ!!!」
「ぅっくっ」
びし!びし!と天元の指が、蛍の額に突き当たる。
四肢が無い為回避することもできず、大人しく喰らう他ない。
その状況にカチンときた蛍はとうとう堪らず叫んだ。
「天元ッ!!」
「…あ?」
「なら私も天元って呼ぶ! 天下衆男!」
「待て後半からただの悪口だろそれ。やめろムカつく」
「嫌だ。ハイ決定拒否権ナシ」
「はぁ? 何ふざけたこと言ってんだ!」
「だから自分が言うそれッ!?」
ぎゃあぎゃあわあわあがーがーぎゃいぎゃい。
互いに腹に力を込めて、罵り言い合うこと──十分。
「はァ…っ待て、一旦休憩だ…終わりが見えねぇ…」
「そっちが、やめないからでしょ…筋肉盛男…」
「それは俺の台詞だ…猫餓鬼娘」
互いにそれなりの怪我は負っている身。
ぜぃはぁと息をついて、一旦口論は保留となった。
「ったく…嫁達だって呼び捨ててねぇのに」
「…は、い?」
「だから、嫁達だって俺のことを呼び捨てに」
「はい?」
「嫁達だっ」
「は?」
「嫁」
「?」
「キョトン顔すんな聞こえてんだろーが!!」
「痛ッ!」
むんずと蛍の耳を摘んだ天元の手が、引き千切らん勢いで引っ張ってくる。
それでも尚、蛍は信じられないものを見る目で天元を見上げた。
「…何を、言っているのか…よく…わかりません…」
「わかるだろーが! 嫁だよ嫁達!」
「え? 達? たちって言った? タチ? 太刀? お嫁さんって複数貰えるものなの? 頭大丈ブグッ!」
「それ以上すっとぼけんなら頭カチ割るぞ」
ゴィン!と脳天に入った拳骨に、蛍の頭が畳に沈む。
「イッタ…こんな女に乱暴な男が…一夫多妻、なんて…世の終わり…だ…」
「俺と死闘する時以上に絶望した顔すんな」