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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第19章 徒花と羊の歩み✔



「少し足を休めようか。ずっと移動漬けだったからな」

「そんな、大丈夫だよ。すぐ回復するし。なんなら歩きながらでも回復できるし。次の任務急がなきゃ」


 遠慮の言葉ではない。
 軽い運動程度なら、稼働しながら回復へと機能することもできる。それが鬼というものだ。

 杏寿郎も知っているだろうと慌てて肩を跳ね起こし、両手を体の前で振る。
 そんな蛍の姿に、向いた双眸は優しく見つめていた。


「生憎、次の依頼任務はきていない。それに俺が休みたいんだ。俺は歩きながら回復はできないからな」


 鬼ではないにしても常人を遥かに越えた力を持つ杏寿郎なら、羽休めも必要ないだろう。

 自分がと求めながら、その底には思いやりがある。
 彼の優しさを知っていたからこそ。


「…じゃあ、ひと休みする」


 頸を横に振るような無粋なことは、できなかった。










「うむ、うまい!」

「しょ、と」


 手近で見つけた甘味処。
 いつもならすぐに移動のできる外の縁台に座ることも多い杏寿郎が、腰を落ち着けたのは店内の席。
 出された茶を喉に通すだけで快活に声を飛ばす見慣れた姿に笑いながら、蛍も背負っていた荷物を下ろした。


「すまないな。蛍にばかり持たせて。この後は俺が運ぼう」

「いいよ。言ってるでしょ、迅速な動きができるようにしないといけないのは私より杏寿郎の方だから。任務中もやっぱり私は補佐が多いし、荷物運びくらいさせて」

「しかしだな…」

「私は、継子。杏寿郎は、師範。です」

「む。」

「でしょ」


 何度目になるのか、そんなやり取りを慣れた様子で受け流し「それよりも、」と蛍は隣の席に置いた包みの上に手を乗せた。


「運ばなくていいから、いい加減この中身を教えて欲しいんだけど」

「む! 蛍、あそこに美味そうな菓子が並んでいるぞ!」

「あっまたそうやって逸らす!」

「見てみよう!」

「杏寿郎ってばっ」


 言葉にしてから行動にかける時間が、杏寿郎は驚く程速い。
 席を立ったかと思うと、その体はもう店内の甘味類置き場の前にあった。


「蛍も来てくれ。とても美味そうだ!」

「はいはい…」


 話題から逃げるだけでなく、本当に興味を惹いたらしい。

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