第19章 徒花と羊の歩み✔
それでも頑なに頸を振るところ、不健全なものでもないらしい。
では一体全体なんなのか。
「なら私が当ててあげるわね!」
「え。」
「甘露寺! 勝手に開けてもらっては──」
「大丈夫ですっそんな勝手なことしませんから!」
拳を握って、何故か勝ち誇ったように蜜璃が笑う。
「でも私、気付いちゃいましたっ」
「えっ」
「よもや」
眉を上げて、ふふんと笑う。
蜜璃の予想外の言葉に蛍は期待に満ちた目を、杏寿郎は見開いた目を尚開いた。
一体全体、何が入っているというのか。
「ぜひ教えて蜜璃ちゃんっ」
「待ってくれ甘露寺っ」
「待ちません! ずばり!」
びしりと、蜜璃の手が蛍の背負う大きな風呂敷を指さす。
「お菓子ですね!?」
「……え」
「……よもや」
勝ち誇った笑顔は依然そのまま。
そんな蜜璃を前に、蛍と杏寿郎の動きが止まる。
「…蜜璃ちゃん…うん。蜜璃ちゃんらしい…けど…」
「えっ?」
「…はは。まぁ、そうだな。甘露寺の好物の桜餅は入っていないと思うが」
「えっえっ? だってほら、煉獄さんだって沢山ご飯食べるじゃない? お菓子も沢山必要でしょ!?」
「甘いものも好きだが、甘露寺程ではないぞ」
「うん。蜜璃ちゃんらしい…」
「ええっ」
緊迫した空気は一変。
がくりと肩を落とす蛍に、杏寿郎は眉を下げて笑う。
ほのぼのと笑い始める杏寿郎に、諦めた様子で蛍も続いた。
──バサッ
その空気を止めたのは頭上で舞う羽音。
任務へと急かしているのだろう、鎹鴉を見上げて杏寿郎はうむと頷く。
「そろそろ本気で向かうとしようか。鬼は待っていてはくれない」
「うん。蜜璃ちゃん、荷物の中身がわかったら今度教えるから」
「それは。うん。気になるけど。でも。その荷物」
「甘露寺も次の任務で現を抜かさぬように!」
「はひっ」
喝を入れるように張りのある声を飛ばす杏寿郎に、ぴしりと蜜璃の背が伸びる。
「では要、案内を頼む!」
「カァ!」
ついて来いと言うかのように、ひと鳴きした要が杏寿郎の肩から飛び立つ。