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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第19章 徒花と羊の歩み✔



 ぴょこんと飛び上がる蜜璃に、呼ばれた蛍もこくこくと頷く。
 唯一慣れた様子で杏寿郎の肩に両脚でしがみ付いたままの要は、これまた小さな溜息をついたのだった。


「じゃあ、あの。村田さん達もお気をつけてっ」

「あ、ああ」

「えっ」

「あ、ハイっ」


 村田と、後方で見守る隊士達にぺこりと頭を下げると、蛍は急ぎ足で杏寿郎の下へと向かった。
 話を振られるとは思っていなかった隊士達が、ぎこちなくも各々反応を示す。


「ごめんなさい。すぐ出発できるので」

「ああ。いや。…すまん」

「? なんで杏寿郎が謝るの?」

「う、む。いや」

「ふふっ煉獄さんったら、とっても可愛いわ♡」

「!? か、甘露寺。変なことを言わないでくれないか」

「だって本当にそう思っただけだもの。蛍ちゃんの前だと、そんなに可愛くなるんですね♡」

「…男が可愛いと言われてもだな…」

「?」


 珍しくも蜜璃に振り回されている杏寿郎の姿にぱちくりと目を瞬きながら、蛍は一人頸を傾げた。
 そこまで切羽詰まった状況でもなかったようだ。


「そういえば、なぁに? 蛍ちゃんのその大荷物」

「これ? 杏寿郎のだよ」

「煉獄さんの?」


 蜜璃の目が、不意に蛍に背負われていた大きな荷物で止まる。
 その反応からして、常に杏寿郎が任務中に持ち歩いている訳でもないらしい。


「中身は知らないけど。いずれ使うものだって」

「も、もしかして鬼退治の秘密兵器とか…!?」

「はははっ甘露寺はいつも発想が斬新だな!」


 「だが違う!」と即答する杏寿郎に、蛍は僅かに眉を顰めた。
 中身は気になるのだが、詳細は教えてくれない。
 そもそもいずれ使うとは、一体どんな時に使うものなのだろうか。


「いつ使うものなの? 鬼に使うものじゃないなら、人に使うもの?」

「いずれわかる!」

「出た常套句。蜜璃ちゃん、いっつもこの返答で押し切られて教えて貰えてないの」

「そうなの? も、もしかして煉獄さん、疚しいものとか入ってるんじゃ…っ」

「むっそれは違うぞ! 断じて!!」

「怪しいなぁ…」

「怪しいわね…」

「違うぞ!?」


 じとりと疑う目を向けてくる異性二人に、杏寿郎に再び焦りが見える。

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