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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第19章 徒花と羊の歩み✔



「それから沢山鍛えたんですよ。未熟なところもあるけれど、あの時よりは少し強くなったかなって」

「へ、へえ」

「だから村田さんは凄いです」

「へ?」

「初動だけで私の術の意図を読み取れるなんて。やっぱり炭治郎が慕う剣士ですね」


 体よりも大きな荷物を背負い、とんと蛍の足が地を踏む。
 欠けた月が照らすその足場には、なんてことはない影が一つ。

 初めて影鬼を見た時は恐怖しか感じなかった。
 生き物のようにうごめき体の自由を奪ってくる様は、それこそ得体の知れない化け物のようにしか思えなかったからだ。
 しかし今、遊戯のような名を付けられた彼女の影を見ても同じ恐怖は感じない。


「私の方こそ、ありがとうございました」

「?」

「お話。してくれて」


 なんてことはない。時間にすれば一、二分の出来事。
 それでも感謝を述べる蛍の傍に、躊躇なく歩み寄っているのは柱である杏寿郎と蜜璃だけだ。
 その他の隊士達は、蛍の様子を伺いながら見守っている。

 そこには見えない壁があるかのように。


「これくらい普通だろ」


 だからと言う訳でもない。
 だが見過ごせる訳でもない。
 ぶっきらぼうにでも口を尖らせながら応える村田の声が、大きくなる。


「君だって炎柱様の継子なんだ。オレ達の仲間だろ」

「…仲間」

「ってなんだその顔。復唱するなよっ」

「や…吃驚して。ありがとうござ」

「だから普通のことだって。そんなことにお礼なんていらないからなっ」


 きょとんと間の抜けた顔をする蛍に、村田の声が調子を取り戻す。

 最初は毒々しい血鬼術と呼吸を身に付けた鬼だと思っていたが、会話をすればなんてことはない。
 炭治郎と同じだ。
 仲間の為にと体を張り、感謝を素直に告げてくる。
 そしてその目は人だけではなく鬼にも向けられている。


(頭の可笑しい奴かと思ったけど、そうだよな。鬼、だもんな)


 蛍にとって鬼は同族だ。
 よくよく考えれば可笑しな話ではない。
 ただ今までそんな鬼などいなかったから、異端として見てしまうのだ。

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