第19章 徒花と羊の歩み✔
任務依頼だ道草するなと怒鳴る政宗に、蛍は嘴で突かれた後頭部を擦りながら溜息をついた。
「だ、大丈夫? 蛍ちゃん…」
「うん。それよりごめんね、任務が入っちゃって」
「ううんっ残念だけど、蛍ちゃんも鬼殺隊として頑張ってるってことだもの! それに多分、蛍ちゃんに任務が来たなら…」
蜜璃が見上げた夜空に、ばさりと舞う一羽の鴉。
頭に花のような飾りを付けたその鴉は、蜜璃の鎹鴉だ。
「二、任務ヨ! 鬼ノ目撃有リ!」
傍にいる政宗に圧されているのか。緊張した面持ちで呼ぶ声は、同じく次の任務を急かすものだ。
「此処は私の巡回地区だもの。蛍ちゃんにまで任務が回ってくるってことは、私だけじゃ対処し切れない任務が発生したってことだから」
「成程」
「蛍! 次の任務が入ったようだ!」
「あ、はいっ」
「煉獄さんともお話したかったけど、どうも時間は取れそうにないわね」
杏寿郎の下へと飛んできていた要も、蛍と同じ任務依頼を告げていた。
よく通る声に急かされ、蛍の背がしゃんと伸びる。
淡い恋の話は束の間。
残念そうに呟きながらも、よしと気合いを入れた蜜璃は笑顔で拳を握った。
「蛍ちゃんっ時間が取れたら、ぜひお茶会をしましょうね! その日を楽しみにしてるからっ」
「うん。私も楽しみにしてる」
「煉獄さんも! ぜひ今度蛍ちゃんと私のお屋敷に遊びに来て下さい!」
「ああ。甘露寺も気を付けて向かうように!」
「はいっ」
頭上を旋回する三羽の鎹鴉に急かされるまま、蛍は太い木の枝にかけていた荷物を取りに向かった。
杏寿郎が鬼殺隊本部を出た時から所持している大荷物だ。
未だに中身は知らないが、杏寿郎が大事に扱っていることは理解している。
「あ、あのっ」
「はい?」
地面に落とさないようにと背負い胸の前で結び目を作っていれば、弾んだ声に呼ばれた。
弾んではいるが、それは蜜璃のように喜びの感情からではない。緊張が残る声だ。