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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第19章 徒花と羊の歩み✔



 それでも退く気はない蜜璃の手は、鷲掴んだ蛍の手を離さない。
 どうにかこうにか片手で口を塞いだまま蛍は咄嗟に口を開いた。


「じゃあ私も訊くからね、伊黒先生とのことっ」

「!?」


 その名を聞いた途端に、ハートの形に変わっていた蜜璃の瞳が動揺する。


「私だけじゃ不公平だから。というか私も訊きたいから。いつから蜜璃ちゃんが伊黒先生に心を決めたのか」

「な、なっな、何、何を…っ」

(うわあ凄いわかり易い)


 もう心臓に悪い言葉は吐かないだろうと塞き止めていた手を離せば、ぱくぱくと口を開閉しながら蜜璃の顔が見る間に赤く染まっていく。
 誰が見てもわかる激しい狼狽を前にして、蛍は己が冷静になるのを悟った。
 寧ろ、今までと違う姿を見せる蜜璃が愛らしくも感じる。


「前々から仲良いなぁとは思ってたけど。やっぱり、とうとう伊黒先生は射止めてしまったんだね。蜜璃ちゃんの心」

「ッ!」


 ぼひゅん。と音を立てて真っ赤に染まった蜜璃の顔から湯気が上がる。
 そんな蜜璃の姿に、今度は蛍が頬を緩ませた。


「そのきっかけ、私知りたいな」

「そんな、き、きっかけ、なんて…いぃい伊黒さん、は、いつも、優しいから…」

「うん」

「私の話、いつも、嫌な顔せず…い、いっぱい、聞いて、くれるから…」

「うん」

「小食なのに、いつも、私の、ご飯、にも、つき合って、くれるから」

「うん」

「いっつも、優しい顔で…私を、見て、くれるから…」

「うん」


 きゃあきゃあと可憐な声を上げて乙女心を爆発させていた蜜璃の面影は、何処にもない。
 辿々しい言葉で、それでも溢れる想いを口にする彼女に、蛍は尚更笑みを深めた。

 今なら蜜璃の気持ちがわかる。
 なんて愛らしいのだろうと、その恋心を無条件に応援したくなるのだ。


(そっか、伊黒先生が。…先生なら任せてもいいかなぁ)


 出会った当初はこんな男に蜜璃は譲れないと思っていたが、今はそんな気持ちは微塵もない。
 寧ろ彼であってよかったと思えるくらいだ。
 彼になら、杏寿郎も褒め称えた裏表のない純粋な心を持つ蜜璃を任せられる。

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