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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第19章 徒花と羊の歩み✔



「……」

「蛍ちゃん?」


 押し黙った蛍に蜜璃が頸を傾げる。
 呼びかけても応えはなく、顔を覗き込もうとすればぱっと逸らされた。


「どうしたの? 急に黙っちゃって…」

「なんでもない」


 早口に告げられる言葉ではなく、蜜璃は別のものに心奪われていた。
 逸らした蛍の横顔。
 その髪の隙間から覗く耳が、赤く色付いていたことに。

 的外れな発言も思考もよくする蜜璃だが、こと色恋に関しては敏感だ。
 赤い耳と聞き慣れない蛍の声こそが、杏寿郎に関しているのだと即座に理解した。


(えっ何? そんなに可愛い反応をするようなことがあったの? 何!? とっても気になるわ!!)


 一体全体、二人の間に何があったというのか。
 ふんす、と蜜璃の鼻息が荒くなる。


「ほ、蛍ちゃんっ」


 蛍の両手を握っていた手が、更に握りしめるように強く鷲掴む。


「今から私とお茶でもしないっ?」

「へ?」

「大丈夫、時間は作るから! じっくりゆっくり聞きたいわ!」

「な、何を言って…蜜璃ちゃん?」


 突然の蜜璃の誘いに、裏返った声を返す蛍の顔がようやく向く。
 その顔に隠し切れない熱量が見て取れて、更に蜜璃の高鳴る鼓動も比例するかのように音を上げた。


「蛍ちゃん、自分のこととなると逃げるからっ今度こそ離さないからねっいっぱいお話しましょう!」

「お話ってなんの…」

「勿論二人の話よ! 蛍ちゃんと煉獄さんの愛の営ンむっ」

「そんなこと大声で言わないっ」


 更に顔を赤くしながら、慌てた蛍が蜜璃の口を塞ぐ。
 すっかり目をハートの形に変えている蜜璃はその場を忘れているが、此処には渦中の杏寿郎も、関係のない他隊士も大勢いる。
 そんな場所でそんな浮付いた話など、場違いにも程がある。


(というか絶対話せないから! 杏寿郎と列車の中で最後までいたしましたなんてこと…!)


 ただ肌を重ね合わせただけではない。
 傍から見れば犯罪とも取れる背格好で相手をしたのだ。
 そんな暴露話、誰が好き好んでするものかと蛍は頑なに頸を横に振った。

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