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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第19章 徒花と羊の歩み✔



「愛は愛よ。折角想いを寄せ合った殿方と二人っきりの任務なのに、何もないはずはないわ」


 きゃっと可憐な声を上げて、蜜璃が口元を両手で覆う。
 そんな蜜璃とは温度差のある静かな表情のまま、蛍は頸を捻った。


「何、というか任務だから、鬼退治しかないというか…」

「ええーっそうなの? 二人っきりなのに何もないのっ?」

「二人っきりな訳じゃないよ。任務に関する人と接したり、隠さんと関わったり、今日みたいに他隊士の人達と会うこともあるし」

「でも四六時中誰かと一緒にいる訳じゃないでしょ? こう、煉獄さんと二人っきりで過ごす夜とか」

「そうだね。二人で登った夜の稲荷山で、怪談紛いな出来事に遭遇したしね」

「そ、それは遠慮したいわね…」

「杏寿郎と二人きりでも怖かった」

「…じゃあ何もないの? 愛の契り」

「任務中にそんな甘い空気になんてならないよ。初任務から、ずーっと立て続けに任務も入ってるし」

「じゃあじゃあ、せめてその移動時間とか…」

「ゆっくり移動する時間なんてないよ。近場の鬼の情報を聞いたらすぐさま向かわなきゃいけないし。杏寿郎が爆風みたいに突っ走っていくこと、蜜璃ちゃんも知ってるよね」

「…それもそうね…」

「ね」


 京都で初任務をこなしてからというものの、一時も休まず鬼退治の依頼は鎹鴉から伝えられた。
 酷い時は数日間、食事や睡眠を取ることもできない。
 それだけ杏寿郎が迅速に移動も鬼退治もこなすものだから、矢継ぎ早に任務の依頼も舞い込むのだろう。

 恐らくこれが柱の通常の仕事なのだと、鬼の体力でどうにかついて行きながらも蛍は舌を巻いた。
 ただの一隊士であったなら、すぐに根を上げていたはずだ。

 同じ継子であった蜜璃も、杏寿郎の任務を怒涛にこなす姿は知っていたのだろう。
 神妙な顔で頷く蜜璃に、ほらねと蛍も笑う。


「強いて言うなら、ゆっくり移動できたのは最初の時かな。初めて列車に乗ったから凄く楽しくて──」


 思い出すように語っていた蛍の声が不意に途切れる。
 杏寿郎の言葉通り、任務となると息つく暇もない。
 故に楽しめる時は楽しむといいと背を押され、初めての乗車に胸を躍らせた。

 その勢いに任せてか。
 揺れる列車の中で、肌を重ね合ったことを思い出して。

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