第19章 徒花と羊の歩み✔
「…わかる、かも」
その表情に見覚えがなくとも、その心には身に覚えがあった。
蛍と蜜璃、二人が共に同じ師を持つ姉妹弟子だったからこそ。
「ね」
ぽつりと零れ落ちた蛍の声に、こてんと頸を傾けて蜜璃が笑う。
「そんな煉獄さんが心に決めた女の子だもの。蛍ちゃんの上辺や言葉だけで認めた訳じゃないわ。だから大丈夫」
熱く温かく引いて抱き締めてくれる、杏寿郎とは違う。
ふんわりと柔らかな真綿で包むように、傍に寄り添う蜜璃だけが持つ色。
「たっくさん迷っていいの。言いたいことがあったら、時には我儘になってもいいわ。そういうものを出していかなきゃ見えてこないものもあるから。今蛍ちゃんが抱えてるものも、初任務で踏み出した結果でしょ? そう思えば全部が全部悪いものじゃないと思うの」
「…そう、かも」
「ねっ」
ぽつぽつと、感じるままに声を零して。
両手を握ってくる華奢な手を見つめて。
ああ、と蛍は目を細めた。
「蜜璃ちゃんは、やっぱり杏寿郎の継子だね」
「?」
「杏寿郎と形は違うけど、同じに惹き付けるものを持ってるから」
「そ、そお?」
「うん。ありがとう」
柔らかなその手を握り返して、蛍も笑顔を零す。
先程の控えめな笑みとは違う表情に、蜜璃もほっと口角を緩めた。
「とりあえず、やれるだけやってみるよ」
「うんうん、その意気! 頑張って」
「うん」
「それと、あともう一つ大事なことっ」
「うん?」
きょろきょろと辺りを伺った後、蜜璃の顔がずずいと近付く。
蛍の耳に唇を寄せて、ドキドキと胸を高鳴らせた。
「煉獄さんとの愛の任務の方は、上手くいってるの?」
「……愛の任務とは」
やはりそれかと顔に出しながらも突っ込まずにはいられなかった。
愛の任務とは、一体。