第19章 徒花と羊の歩み✔
わたわたと訂正を入れながらも、蜜璃の声は熱を増す。
その顔は何かを思い出すように、蛍を見つめていた。
「ほら、前に話したじゃない? 私が柱を目指した理由」
「うん。添い遂げる殿方を見つける為、だよね」
「煉獄さんが初めてだったのよ」
「え?」
「私のその理由を知って、笑ったり驚いたり呆れたりしなかった人」
杏寿郎の継子として迎え入れられた、煉獄家の戸を跨いだ初日。
蜜璃は、杏寿郎に柱を目指していることを伝えた。
何故柱を目指すのか。
師弟であれば極自然に生まれる会話の一部だった。
「人生の伴侶を捜している」
熱で赤くなる顔を両手で包みながらそう伝えた蜜璃に、杏寿郎は見開いた目を更に開いて凝視した。
ぽけ、と一瞬固まったようにも見えた次の瞬間には、成程と納得した声で笑ったのだ。
蜜璃の柱を目指す理由を笑った者達のような、軽蔑したものではない。
心底感心した声で褒め称えた。
『人々を守る使命を背負うということは、単に任務をこなすことではない。その人々を愛する心が在ってこそ成り立つものだ。君はその心根から真っ直ぐなのだな! 凄いことだ!』
「それを聞いた時、ああ私、此処にいてもいいんだって思えたの。殿方捜しと同じに、自分の居場所も探していたからかな…煉獄さんは、私を継子に持てたことを誇りに思うって。自分は幸せ者だって、そう言ってくれたのよ」
曇り一つない眼で、厳しく蜜璃を鍛え上げながらも温かく励ましてくれた。
「突っ走っちゃって追いかけることもあったけど、必ず先で待っていてくれた。私を見る時は、言葉だけじゃなく心の内にまで耳を傾けてくれた。だから私もとても誇らしかったのよね。そんな煉獄さんの継子になれたことが」
「……」
「そんな煉獄さんだから、迷っても自然と大丈夫よねって気持ちになれたの。この髪色だって、煉獄さんが鬼の気を引き付けることもできるし、人を明るくもできる私の才能だって言ってくれたから。私はこのままでも大丈夫。今のままの私でいいんだって」
思い返すように話す蜜璃の表情は柔らかい。
異性に胸を高鳴らせている時とも、しのぶや蛍と和気藹々とはしゃいでいる時とも違う。