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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第19章 徒花と羊の歩み✔



「君達も無事でよかった。他に手傷を負ったものは?」

「い、いえ。大丈夫ですっ」

「そうか。ではこの者達だけ、近場の藤屋敷で手当てを受けられるように手配しよう。体を張って鬼を仕留めようとした心意気は見事だ。皆よくやってくれた!」

「そ、そんな…」

「炎柱様…」


 迅速な対処をしながらも剣士達を労うことを忘れない。
 杏寿郎の曇りのない笑顔を前にして、剣士達の目尻が潤む。

 鎹鴉によって呼び集めた隠達により、鬼が暴れて荒らした土地も慣らされていく。
 何度も目にして、今では見慣れてきた後処理を視界の端に捉えながら、蛍は知らず溜息をついた。


「どうしたの? 溜息なんてついて」

「あ、いいえ」

「ふふ。今は隊士の皆は煉獄さんとお話し中だから。私にまで言葉遣いを気遣わなくていいわよ」

「…うん。ちょっと」


 そんな蛍の様子を見逃さなかったのが、偶然の出会いに喜びを全身で伝えてきた蜜璃。
 蜜璃の柔らかな笑顔を真正面から受けて、蛍は肩の力を抜くように下げた。


「そういえばどうだった? 煉獄さんとの初任務! 無事こなせたかしら?」


 きらきらと期待に満ちた目で見てくるのは、初任務の成功よりも杏寿郎との過ごした時間を期待しているからか。
 出会った時から変わらない蜜璃の態度には、当初から毒気を抜かれることも多かった。
 それが彼女の長所なのだろう。

 今もまた、明るいその笑顔を前にするとつい口元が緩む。
 覗き込んでくる蜜璃に、蛍も笑みを返した。










「──鬼との、談判?」

「うん」


 それから数十分。
 迅速な隠達の手により運ばれていく負傷者達を見送りながら、蛍は掻い摘んで初任務での出来事を話した。

 蛍と後藤と杏寿郎の三人で、花吐き病の血鬼術を持つ鬼を滅したこと。
 そこで自分の、鬼の、存在意義を考えたこと。
 杏寿郎にその先を見せる為に、約束を交わしたこと。

 いつもの大袈裟なまでの反応は見せずに、大きな瞳を更に丸くして蜜璃はじっと耳を傾けていた。
 蛍が一通り話し終えると、はわぁと感嘆にも驚愕にも似た大きな溜息をつく。

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