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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第19章 徒花と羊の歩み✔



「あれは蛍の頸を狩ろうとした! 故にこちらが狩ったまで! 顔面ではなく眼孔から頸まで刃を突き立てたまでだ!」

「ひえ…普通に斬るよりおっかないそれ…」

「臆してどうする! 君も鬼なら腹を括れ!」

「鬼でも怖いものは怖いし痛いものは痛いんです!って違う話逸れた! 私はもう少し時間の延」

「無理だな!!」

「だから遮るのやめてくれません!?」


 鬼が脅威を振り撒いていた時よりも騒がしい。


(なんだこれ…痴話喧嘩か?)


 飛び交う柱と鬼の意見の押し合いに、村田は呆れ果てた。


「毎回失敗に終わるのは私の説得不足もあるけれど、師範の潔さも原因な気がする…絶対」

「毎回鬼を滅するに至るのは、その者達が悪鬼そのものだからだ。故に斬首に至った。それだけだ!」


 頭を抱える蛍に向けて、笑う杏寿郎には後悔など一切ない。

 蛍が鬼に声をかけたことは一度や二度ではない。
 初任務から幾度と出会う鬼には全て、声をかけてきた。
 機会は一度きり。
 その機会を杏寿郎は必ず与えてくれたからだ。

 それでも未だに一度も鬼の延命に至ったことはない。
 全ての鬼は杏寿郎の炎刀を前に、頸を斬り裂かれた。

 杏寿郎の言う通り、出会った鬼の誰もが与えられた時間内で蛍の説得に納得する気配がなかった。
 そのことを否定できないが為に、杏寿郎の言葉に強く反論もできない。


「猶予が短いと言うが、現に蛍が天秤に賭けるべき鬼であれば、その短い時間内に他者に牙を剥きはしないだろう」

「…それは…」

「それが既に"答え"だ。君は悪鬼ではない。だがあの鬼は斬首すべき対象だった。それだけだ」


 杏寿郎の視線の先を追えば、頸を斬られ絶命した鬼の屍が見える。
 綺麗に頸を断ち切られた鬼は、それ以上藻掻き苦しむ間もなく、死に伏せていた。

 ぼろりと崩れ落ちていく体。
 手も、足も、胴体も、顔も。全てが塵と化して宵闇に消えていく。


「……」


 見届ける蛍の目に哀しみの色が映ろう。
 鬼であれば死んだ後は骨も残さない。
 全てが無に帰し、その存在自体でさえも消えてしまう。
 この世から全て消え失せてしまうのだ。

 これでは、まるで。


(死んだらもう存在さえ、許されない)

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