第19章 徒花と羊の歩み✔
「案ずるな」
必死に声を荒げる村田に対し、日頃威勢のいい声を発している杏寿郎は静かだった。
静かだが、見据えてくる目と声に迷いはない。
「如何なる理由があろうとも"鬼"は斬る」
ぎりぎりまで見開いたような、炎を宿した鋭い瞳孔。
殺気にも似た冴えた圧を前にして、村田の喉が震える。
「必ずだ」
其処にいたのは、紛れもなく悪鬼を滅する柱だった。
「…なん、だァお前…」
赤い炎刀で切断された脚は、燻り続けるように細胞を焦がし再生を遅らせていた。
地べたに這いつくばったまま、憎々し気に見上げる鬼の顔が困惑を宿す。
目の前に立っている女は、先程まで己を囲っていたどの人間とも違う。
急に現れた、派手な髪色の鬼狩りとも。
揃いで着ている隊服姿はしておらず、刀らしきものも持っていない。
加えてこの場を覆い尽くしている影のような空間はなんだ。
深く考える前に、直感が鬼に答えを導いた。
「お前、鬼か…!」
同じ血のように赤い目を見開く鬼に、じっと見下ろしていた蛍がゆっくりと口を開く。
時間は限られている。
だが急かしてはいけない。
「はじめまして」
大事なのは初めの一歩。