第18章 蛹のはばたき✔
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「では、世話になった」
「いえ、いえ。私らの方こそ。毎度ながら、見事な鬼退治どした」
杏寿郎により、無事お稲荷様へと油揚げを献上した翌朝。
早朝一番の列車を待つ為、杏寿郎と蛍は藤屋敷を後にすることとなった。
朝焼けの中。玄関先まで見送る藤の主に、杏寿郎と蛍が先の地を踏む。
「後藤さんも、また。寂しくなるけど」
「本部でまた会えるさ。それまで蛍ちゃんも怪我し過ぎないようにな。炎柱様、よろしくお願いします」
「うむ! 君にも世話になったな」
「オレは隠としての仕事をしただけですよ」
杏寿郎と蛍は次の任務へと直接赴く。
後藤は一度本部へと戻り、再び任命される別任務へと向かう。
剣士と隠は各々現場にて合流することが多く、常に一定の相手と組む訳ではない。
同じ任務に赴けるとばかり思っていた蛍は、その事実に残念そうに肩を落とした。
そんな蛍の反応に、苦笑ながらも満更でもなさそうに後藤は笑う。
「ぇ、炎柱様。また、京に寄ってくださいねっ」
「うむ!」
「オレ、もっと鬼のこと勉強します。もっと美味しいモンとか観光案内できるようにしますっ」
「それは楽しみだな! ぜひ、また蛍と楽しませてくれ」
「はいっ」
満面の笑みを浮かべた杏寿郎の手が、ぽんと清の頭を撫でる。
途端に幼い頬は高揚し、きらきらと目を輝かせて少年は声を弾ませた。
杏寿郎の手が離れれば、遠慮がちに見上げた清の目が隣りにいた蛍と重なる。
まさかこちらを向いていたとはと、縦に割れた緋色目に慌てて逸らした視線は地へ落ちる。
しかしその口は、逃げるようなことはしなかった。
「…あんたも炎柱様が認めはった、継子なんやし。…鬼退治、お疲れ様、でした」
「ぁ。うん」
途切れ途切れながらも礼を口にして、頭を下げる。
まさか清にそんな態度を向けられるとは思ってもおらず。
ぱちりと目を瞬きながら、蛍も慌てて習うように頭を下げた。